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「考える」筆者・大阪国際中学校高等学校 橋本光央

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「……現代の合理主義的風潮に乗じて、物を考える人々の考え方を観察していると、
どうやら、能率的に考える事が、
合理的に考える事だと思い違いしているように思われるからだ。
当人は考えているつもりだが、実は考える手間を省いている。
そんな光景が到る処に見える。
……考えれば考えるほどわからなくなるというのも、
物を合理的に究めようとする人には、極めて正常な事である。
だが、これは、能率的に考えている人には異常な事だろう」

これは昭和34年に小林秀雄が著した『良心』の一節です。
さすが知の哲人、短い文の中で「考える」ということについて、その本質を表しています。
でも、昭和34年といえば、大学進学率が8.1%(男13.7%、女2.3%)でした。
まさに大卒がエリートだった時代、志ある者が学問にいそしんでいた時代です。
それにもかかわらず、そのころでさえ、
「本当の意味での考える人はいなかった」というのですから驚きです。

ましてや大学進学率が50%を越える現代では、
「学問するために大学を目指す」という以外の人までもが、
進学するようになってしまったのです。
そのため、「大学へ入ること自体が目的」となってしまったようで、
今では大学進学を実現するために、
「能率的な勉強」をしている(させられている)学生がほとんどの状態です。
そして大学生になったらなったで、「それがゴール!」であるため、
そこからじっくりと物事を考えることは少数派になりました。
加えて、今ではweb検索で何でも簡単に知ることができるようになりました。
分からないことがあれば、すぐにインターネットが教えてくれるため、
深く考える必要なんてないのです。

ソクラテスは神託の意味を
「知恵に関しては自分にはほとんど価値がないことを
自覚した者が人間たちの中で最も知恵ある者である」と解釈します。
いわゆる「無知の知」です。
この無知の知に至るまでには三段階あって、
(1)知っていることを知っている。
これは当然ですね。
(2)知らないことを知っている。
だから、知らないことがあればインターネットで検索すればいいのです。
そして、
(3)知らないことを知らない、ということを知っている。
これが無知の知です。

なぜなら、知らないことすら知らない人は、ネット検索をすることもできないでしょう。
だから、自分には
「気づいていない問題があるということを理解し、常に意識しておくこと」
が大切なのです。
それが新たな問題に気づくことにつながりますから。
そして、それこそが、「これから求められる最も大切な力」なのです。
(2)まではAIがやってくれます。しかし、AIには問題を解決することはできても、
問題に気づくことはできません。
(3)は人間にしかできないことなのです。
まさに、これが「これからの人がしなければならないこと」なのです。

【プロフィール】
1989年より大阪北予備校に勤務、
2007年より大阪国際学園に勤務。
橋本喬木・天野大空のペンネームにてショートショートを執筆、
光文社文庫『ショートショートの宝箱』シリーズ等に作品を提供。
『ショートショートの宝箱』

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