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「若者は上をめざさない?」筆者・法政大学キャリアデザイン学部教授 児美川孝一郎

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先日、中小企業の経営者や幹部社員の方々が集まるセミナーで講師を務めた。
その際、話題の一つとして、近年の若者が「上をめざさない」ことを取り上げてみた。
調査などを見ると、確かに若い人たちの多くは、
将来、管理職になりたいとは必ずしも思っていない。
骨身を削って働いて、高額な給与を得たいとも考えていない。
逆に、重視しているのは、ワークライフ・バランスであり、残業やノルマがないことである。
日本以上に競争が苛烈な中国においても、
最近では「寝そべり族」と言われる若者たちが登場しているらしいから、
これは、日本だけの現象ではないのかもしれない。

上昇志向を持たない若者を「ふがいない」と思うかどうかは、
その人の価値観によるだろう。
しかし、会社を経営する立場からすれば、若手社員のこうした感覚は、
彼ら彼女らの仕事へのモチベーションをどう喚起するかという点で、
やはり好ましいことではないらしい。

「なぜ、若者たちは上をめざさないのか」
思いきって、グループ討論をしてみることにした。
傍から見ていると、各グループの議論は、かなり盛り上がっているように見えた。
もちろん、それが、
若手に対する単なる愚痴の言い合いであったりすると困るのだが、
どうやらそうではなかった。
グループ討論を終えた後に、それぞれの場でどんな意見が出たのかを全体でシェアした。
次のような意見が飛び出してきたときには、思わず唸ってしまった。
若者たちは、現状のままでいいと達観しているのではなく、
やはり成長やwell-beingをめざしている。しかし、そのめざし方は、
われわれ世代が考えてきた「上」への志向とは違うのではないか、と。

卓見であろう。
筆者なりに付け加えれば、成長やwell-beingをめざしつつも、
いざ行動に移そうとするには、
自信が持てなかったり、周囲の目を気にしすぎているといった作用もあろう。
人材育成に取り組む企業現場でも、キャリア支援に従事する教育現場でも、
「若者バッシング」では何も生み出されない。
若者たちの意識や論理にどれだけ肉薄できるのか、
問われている課題は大きいが、一筋の光明が見えたような瞬間であった。

【プロフィール】
教育学研究者。
1996年から法政大学に勤務。
2007年キャリアデザイン学部教授(現職)。
日本キャリアデザイン学会理事。
著書に、『高校教育の新しいかたち』(泉文堂)、
『キャリア教育のウソ』(ちくまプリマー新書)、
『夢があふれる社会に希望はあるか』(ベスト新書)等がある。

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