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「あと少し」筆者・大阪国際中学校高等学校 橋本光央

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小林秀雄は「言葉」という作品の中で、
本居宣長の歌論について、次のように言っています。
「彼に言わせれば、歌人達は歌の独立的価値を知らぬどころではない。
むしろ知りすぎて孤立している。
技芸の一流と化して社会から孤立し、仲間同士の遊びを楽しみ、
社会の常識も歌の事は知らぬですましている。悲しい哉と考えるのである」

簡単に言うと、歌人たちはあまりにも専門化し過ぎたため、
大衆には分からない歌を楽しんでいるということ。
これに続けて、
「彼の歌の道とは、歌をこの誤った排他性から解放する事にあった。
歌の道を知るとは、歌は言葉の粋であると知る事だ。
言葉は様々な価値意識の下に、雑然と使用されているか、
歌はおよそ言葉というものの、最も純粋な、本質的な使用法を保存している。
それを知る事だ」
つまり、一般大衆にも分かる歌が素晴らしい、
そのためには言葉を大切にすることだ、と言っているのです。

その道を極めるために頑張り、そこそこの実力をつけてきたとき、
人はこの時期が一番危ういのです。
なぜなら、それなりの力をつけたため、つい天狗になってしまうものだから。
すると、自分より劣る者を小馬鹿にするようになり、
自分と考えを同じくする者たちと狭いコミュニティ内で
Misery makes strange bedfellows.(不幸は奇妙な仲間を作る)に陥ってしまう。
その傲慢さは、同病相哀れむ感じです。

すると、もう、世間から相手にされることはありません。
まさに「悲しい哉」です。
だから、この時期を越えることができるかどうかが、
「頑張りの大切さ」なのです。
せっかくこの域まで達しているのだから、もう少しです。
生半可で終わってしまうかどうかの瀬戸際です。
悲しい人から抜け出すのに、あと少しです。
さあ、もうひと踏ん張り。
本当に究めた人なら、その意識は一般大衆と乖離することはないし、
人々に崇敬されるものなのですから。

【プロフィール】
1989年より大阪北予備校に勤務、
2007年より大阪国際学園に勤務。
橋本喬木・天野大空のペンネームにてショートショートを執筆、
光文社文庫『ショートショートの宝箱』シリーズ等に作品を提供。
https://yomeba-web.jp/special/ss-cam5/

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