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「縮小社会への移行と教育システムのトランジション」筆者・葉養正明

高校生のための進路ナビニュース

2013年、京都大学工学部有志を中心に組織された「縮小社会研究会」では、
「限りある母なる地球」という視点から出発した、
右肩上がりの経済成長路線の限界を訴える論調が支配的である。
輸入に頼る日本の食糧事情などのデータを基礎に、
論陣を張っているため説得力は大きい。
ベストセラーになった斎藤幸平氏の『人新世の「資本論」』や
パブロ・セルヴィーニュ他の『崩壊学 人類が直面している脅威の実態』
などを手に取るようになったのは、研究会に触発されてのことである。

わが国社会が「縮小社会」に移行しつつあることは、
これまでの「失われた30年」(賃金はこの30年ほぼ平坦に推移してきた)
などを示しながら語られる。
また、少子高齢化が継続する同期には、人口減少への移行も始まっている
(総務省統計局によると2005年が端緒)。
「今や日本は縮小社会になったらどうしたらよいか、
という段階ではなく、縮小がかってに始まっている状況にあり、
社会の崩壊レベルを最小限にとどめるにはどうしたらよいか、という問題に直面している」
(第66回研究会での山本達也清泉女子大学教授の報告から)
という主張に、真正面から向き合う時期にあるようだ。

文化芸術、健康分野と並び、
教育も社会的共通資本として大事にしていこうというスタンスにたっているが、
しかし、少子化や人口減少のインパクトは大きく、
過疎地や離島、郡部などでは学校廃止の波がおさまらない。
国立社会保障・人口問題研究所の平成29年度推計(出生中位、死亡中位)では、
2065年度の総人口は約9000万人程度に下落する(約31%減)とされる。

学校教育法施行規則の規定する小中学校の適正規模は12~18学級とされる。
「地域の実態その他により特別な事情のあるときは、この限りではない」
という附則はあるが、しかし、「標準規模」が規定されるため、
若年人口減少は学校規模縮小に連動し、不適正とされる学校数は増えることになる。
離島や過疎地、郡部などでの小さな学校の増加や廃校の続発、
その際「学びの拠点」をどう維持するかという課題は、次々に噴出することになる。

一例として教職員配置比率を見ると、
児童数41人のa小学校の教職員数は21人であるが、
児童数821人のb小学校の教職員数は52人となっている。
a小学校のp/t比(児童数/教職員数)は0.5であるのに対し、
b小学校のp/t比は0.06であり、
児童一人あたりの教職員数には約8倍の開きがある。
学校施設の老朽化、教育条件の均等化などを背景に、
地方自治体が学校統廃合を急ぐ背景になっている。
高校再編も同様である。

しかし、では離島や過疎地、郡部などで「学びの拠点」が消滅してよいか。
コロナ禍にあって、子ども一人一台のiPad配布が本格化している。
全国に設置される公民館(2015年で約14000)への「学校」複合などにより、
単体としての学校に代替する「学び拠点」整備の可能性はないか。
教育の質の維持向上を目指し、かつ地域住民の協働も促す、
「学びネットワーク」構築のための教育システムのトランジション
(教職員配置法制の見直しなど)を検討する時期ではないか。

【プロフィール】
教育政策論、教育社会学専攻。
大学教員として45年間過ごし、現在は東京学芸大名誉教授、
国立教育政策研究所名誉所員、埼玉学園大学大学院客員教授。
少子化・人口減少、大震災や戦乱などの社会変動のもとにおける
学校システムのあり方などを主テーマにしている。
近刊論文は、「東日本大震災における宮古市の子どもの生活
・学習環境意識の変化とレジリエンス―縦断調査を通して」
(『災害文化研究』第6号、2022年5月)。
単著は、『人口減少社会の公立小中学校の設計
―東日本大震災からの教育復興の技術』(協同出版)など。

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