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【進路コラム】「大学教員と職員のあいだ」筆者・法政大学キャリアデザイン学部教授 児美川孝一郎

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世間ではあまり注目されていないが、
現在、文部科学省が進めている大学設置基準の改正は、
今後の大学のあり方を
大きく揺さぶりかねない内容を備えている。
改正はいくつもの論点にわたるが、
ここでは、大学を支える組織体制の変更に着目したい。
その内容は、簡単に言えば、
これまでの大学設置基準では、
「教員組織」「事務組織」と区別されていたものを
「教育研究実施組織」に統合するというのである。

この変更は、大学において、
キャリア支援・教育に携わる部署やスタッフには、
どんな影響を与えるだろうか。
改正を好意的に解釈すれば、
「教職協働」のこれまで以上の進展が期待できるかもしれない。
教員と事務職員という区分が消滅するわけではないが、
両者はともに「教育研究実施組織」に所属する。
従来は存在していた垣根が低くなり、
実質的な連携・協働が進むということは十分に考えられる。
とりわけキャリアセンター等においては、
職員による学生のキャリア支援の役割が大きく、
かつ、そうした支援と教員によるキャリア教育・支援との
有機的な連携が求められていた。
今回の改正が、両者の壁を取りはらい、
連携・協働を一気にすすめる契機となることも
想像できなくはない。

しかし、今回の改正には、
これまで「専任教員」と規定されてきたものを
「基幹教員」に置き換える条文も含まれている。
基幹教員とは、複数の学部や他大学との兼務も可能で、
一定の条件を満たせば、
常勤である必要はない教員のことである。
大学教員の勤務形態を柔軟にすると言えば、
聞こえはいいが、この規定を悪用すれば、
各大学は、人件費削減のために常勤の教員を減らし、
非正規の「基幹教員」に置き換えることもできてしまう。
もし、そんな体制になれば、
先に指摘したような「教職協働」の充実の可能性は、
絵に描いた餅にしかならない。

大学設置基準が改正されたとしても、
それをどう活用するかは、もちろん各大学の判断である。
しばらくは、改正の影響とそのゆくえを
慎重に見守っていく必要があるだろう。

【プロフィール】
教育学研究者。
1996年から法政大学に勤務。
2007年キャリアデザイン学部教授(現職)。
日本キャリアデザイン学会理事。
著書に、『高校教育の新しいかたち』(泉文堂)、
『キャリア教育のウソ』(ちくまプリマー新書)、
『夢があふれる社会に希望はあるか』(ベスト新書)等がある。

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