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【進路コラム】「コミュニティ・スクールを一言で言えば」筆者・葉養正明

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各地にコミュニティ・スクールが広がっている。
平成18年度の改正教育基本法では、
第13条に学校・家庭・地域住民その他の関係者の
教育にかかわる連携協力を推奨する規定が設けられた。
それを受け、第二期教育振興基本計画が閣議決定され、
「絆づくりと活力あるコミュニティの形成」がうたわれた。
成果指標としては、
すべての学校区における学校と地域との
連携協力の体制づくりや、
コミュニティ・スクールの拡充
(全公立小中学校の1割に拡大)があげられている。
コミュニティ・スクールが全国化する背景になった。

ところで、学校と地域社会との連携は、
近代学校が発足する明治初期に遡るが、
明治中期の改正教育令や教育勅語制定等をきっかけに、
「教育の聖域」としての学校、
地域社会から超然とした施設としての観点が強められた。
その後の歴史の中で、
再び学校と地域社会とのかかわり合いに注目が集まったのは、
第二次大戦後の昭和20年代中期のことであった。
米国の教育思潮を受けた生活学校運動、地域教育計画づくりなど、
コミュニティ・スクール運動が一時期広がりを見せたが、
しかしそれらの大半は昭和20年代後半には下火になった。
学校と地域社会との連携協力問題の棚上げである。

この課題が再浮上するのは、
中曽根内閣のもと設置された臨時教育審議会、
小渕内閣のもとの教育改革国民会議など、
教育政策を文科省に委ねずに、
政府全体がかかわるようにしようという
構造転換の中でのことである。
特に後者では、教育を変える17の提案のなかで
「新しいタイプの学校(“コミュニティ・スクール”等)
の設置を促進する」が盛り込まれ、
コミュニティ・スクールという用語が浮上するきっかけになった。

現在のコミュニティ・スクールは、
地教行法の一部改正による学校運営協議会の設置(任意)、
その再改正による設置検討の努力義務化という流れの中にある。
さらに、第三期教育振興基本計画(平成30年6月)では、
すべての公立校がコミュニティ・スクールになることを目指すとしている。
では、激増するコミュニティ・スクールはどのような果実を結んでいるか。

コミュニティ・スクールの制度は、
保護者や地域住民等による学校支援と、
学校運営への意見表明・教職員人事に関する意見の申し出の2点を
想定していると見てよいが、
各地の多くのコミュニティ・スクールは前者に大きな比重を置いている。

では、一言で言えばコミュニティ・スクールとは、
どのような学校なのだろうか。
イギリスの公立校(サッチャー教育改革後の)のように、
学校理事会を各学校に設置して人事・予算・カリキュラムの3領域を
審議決定する学校とするなら、
それはそれで学校像は明確だ。
従前教育界に流布し、慣れ親しまれてきた、
「開かれた学校づくり」と異なるのか。
「教育改革国民会議」報告を契機に、
「コミュニティ・スクール構想のモデルはイギリスなのか、
それとも米国のチャータースクールなのか」等の議論を思い起こすと、
コミュニティ・スクールが激増し、
当たり前の存在になればなるほど、
その意味内容を単純化して表現できる工夫が大切になる。

*コミュニティ・スクール
保護者や地域のニーズを反映させるために、
地域住民が学校運営に参画できるようにする仕組みを有する形態の学校。

【プロフィール】
東京学芸大名誉教授・国立教育政策研究所名誉所員
教育政策論、教育社会学専攻。
大学教員として45年間過ごし、現在は東京学芸大名誉教授、
国立教育政策研究所名誉所員、埼玉学園大学大学院客員教授。
少子化・人口減少、大震災や戦乱などの社会変動のもとにおける
学校システムのあり方などを主テーマにしている。
近刊論文は、「東日本大震災における宮古市の子どもの生活
・学習環境意識の変化とレジリエンス―縦断調査を通して」
(『災害文化研究』第6号、2022年5月)。
単著は、『人口減少社会の公立小中学校の設計
―東日本大震災からの教育復興の技術』(協同出版)など。

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