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【進路コラム】「巧遅は拙速に如かず」筆者・大阪国際中学校高等学校 橋本光央

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「巧遅は拙速に如かず(こうちはせっそくにしかず)」
という格言があります。
これは『孫子』にある、
「兵は拙速を聞くも、未だ巧の久しきを賭ざるなり」
という言葉から作られた格言なのですが、
最近これを引用する識者が増えているように思います。
それは、「上手でなくとも、迅速に物事を進めるべきだ」
「学生じゃないんだから、
社会では時間をかけて100点を目指すより、
迅速に60点を出すほうが評価される」と、
現代社会における仕事のやり方を示すときに使われているからです。
ちょっと待ってください。
でも、それは「手抜き仕事」なのではないでしょうか。

ところで、改めて孫子の文章を確認してみたところ、
この言葉の前には、
「その戦いを用なうや久しければ、すなわち兵を鈍らせ鋭を挫く。
城を攻むれば、すなわち力屈き、
久しく師を暴さば、すなわち国用足たらず。
それ兵を鈍らせ鋭を挫き、力を屈くし貨を殫くすときは、
すなわち諸侯その弊に乗じて起こる」
とありました。
これを簡単に言うと、
「戦争が長引けばろくなことがない」ということであり、
だから「兵は拙速を聞くも、未だ巧の久しきを賭ざるなり」、
つまり「戦では拙くても速やかに進めたという話はあっても、
巧に戦を長引かせることはない」
と結論づけているのです。
「戦争が長引いて国の利益になったためしがない。
だから、早く終わるように頑張れ」と。

結局のところ、孫子は「雑な仕事をしろ」とは言っていない、
ということなのです。
ましてや「キチンとした仕事をするより、
雑な仕事のほうが勝っている」なんて一言も言っていないのです。
逆に、「しなければならない仕事は、少しでも早くやってしまえ」
と言っていたようにも読み取れます。

最近、雑な仕事をする大人が増えてきたように思います。
今の時代、スピード感が優先されるあまり、
適当な仕事でお茶を濁している人が
増えてしまったのではないでしょうか。
少し前の時代までの「丁寧な仕事を重視する日本人の姿勢」からは、
まるで正反対になっているように思います。
結果として、
「数年後に手抜き工事等による悪影響が発覚し、大損害を被る」
ということが、今では日常茶飯事になっているのではないでしょうか。

このことは、勉強に取り組む姿勢においても変わりありません。
「これだけを覚えておけばいい」等という効率的な勉強
(言い換えれば、浅い勉強)でその場をしのぐのではなく、
やはりキチンとした勉強をしなければ、
本当の力が身に付かないからです。
そのためには、ダラダラと時間だけが
過ぎていく勉強をするのではなく、
「今、しなければならない勉強」
を少しでも早く終わらせるために
「集中して頑張る」ことが大切なのです。
繰り返しになりますが、
孫子は「巧遅は拙速に“勝って”いる」とは言っていません。
「長引かせる必要はない、長引かせないための努力をしろ」
と言っているのです。

【プロフィール】
1989年より大阪北予備校に勤務、
2007年より大阪国際学園に勤務。
橋本喬木・天野大空のペンネームにてショートショートを執筆、
光文社文庫『ショートショートの宝箱』シリーズ等に作品を提供。
https://yomeba-web.jp/special/ss-cam5/

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