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【進路コラム】「教職課程の窓から――課程認定の物差しは確かか」筆者・葉養正明

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大学教員になって46年。
主に教職課程や教育学研究科で授業に当たり、
国立を含む20前後の大学で学生との交流を進めてきた。
幸い、大半の卒業生が教員や保育士、
または官界、学会等で活躍しており教師冥利につきる。
しかし、他方胸中に去来する煩悶もある。
大学キャンパスの多様性、学生資質の変化である。

アメリカの教育社会学者マーティン・トロウが
高等教育の発展段階に関連して、進学率50%未満を「大衆化」、
50%以上を「ユニバーサル化」と呼び、
「ユニバーサル化」に達すると大学教育の質は根本的に変化する、
と述べたのは約50年前になるが、
わが国の大学進学率は2010年頃にはすでに50%を超えている。
トップ大学から始まって、
いわゆる「Fラン大学」でも授業を担当した経験からすると、
「大学」と名付けられていても実態の違いは著しい。

外部機関に委託して、とある大学で新入生対象に、
数学と国語についての学力水準の調査が実施された。
中1から高3までの教育内容に照らし、
学生がどの学力水準にあるかを調べる調査である。
結果は、数学については中3レベルが最頻値、
次の山は中2、国語も最頻値は中3で、次の山は高1となった。
特に数学については、高1水準はほとんど見られず、
高校教育が空洞化している結果が示された。
調査結果を受け、大学では入学前教育の取り組みが始まったが、
しかしそれで入学時の学力を
抜本的に変えるというのは至難の業である。

Fラン大学のみならず、授業は学生との格闘の過程で実態が決まる。
教職課程設置に必要な課程認定は、
あくまでも書類上の認定にしか過ぎない。
授業者の工夫、改善努力を超えたところまで実情は深刻化している。
案の定、免許状を取得しても、
教員採用試験を受ける自信がない、
受けても次々と不合格になるという学生の実情を見ていると、
文科省に提出するための文書作りの気苦労は何のため、
という徒労感に苛まされる。

ジェリー・Z・ミュラーの
『測りすぎ なぜパフォーマンス評価は失敗するのか?』
(2019年、みすず書房)には次の一節がある。
米国の大学生の質の低下について論じている箇所だ。
「(米国では)むしろ、以前より多くの学生が
大学レベルの学業に備えた状態で
高校を卒業できている証拠はないというのが実情だ。
大学への備えができているかどうかを測定するのは
SATやACTなど、大学での成功の可能性を
予想するために用いられる学力テストでの生徒の成績だ。
・・・(実施結果は)受験した生徒のうちの1/3が、
(英語、数学、読解、化学からなるACTの)
4科目のどれ一つとして指標に到達しなかった。
そして3科目以上で指標をクリアしたのはたったの38%だった。」

以上は、トロウの「ユニバーサル」状況が
米国でいかに先鋭化しているかを描いているが、
後を追うわが国の場合も似たり寄ったりで、
大学キャンパスの風景は年を追うごとに変化(劣化)している。
文科省の「課程認定の物差し」は、
学生の資質の変化とは無関係に、授業担当者の視点に依拠している。
授業が教員と学生の格闘の過程だとすると、
これまでの「課程認定の物差し」で、
学校現場への有為な人材の育成はどれほど担保されるのだろうか。

【プロフィール】
教育政策論、教育社会学専攻。
大学教員として46年間過ごし、現在は東京学芸大名誉教授、
国立教育政策研究所名誉所員、埼玉学園大学大学院客員教授。
少子化・人口減少、大震災や戦乱などの社会変動のもとにおける
学校システムのあり方などを主テーマにしている。
近刊論文は、「東日本大震災における宮古市の子どもの
生活・学習環境意識の変化とレジリエンス―縦断調査を通して」
(『災害文化研究』第6号、2022年5月)
(災害文化研究会―Association for Research on Disaster Culture)など。
https://logos.edu.iwate-u.ac.jp/saigaibunka/

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