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【進路コラム】「子ども数の減少と人間学的子ども観」筆者・東京学芸大名誉教授・国立教育政策研究所名誉所員 葉養正明

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5月5日に「子どもの日」を迎えた。
マスコミ各社の視線は、日本の「子ども数の減少」に向けられてきた。
世界はウクライナ戦争の渦中にあり、
「未来への子どもの夢」を語るにはいささか場違いという印象が
広がっているためであろう。

わが国は、約40年以上の間子ども数の減少が続いている。
政府統計でも毎年同じトレンドがはじき出される。
合計特殊出生率を見ると2012年は1.41だったが、
これは1.26を記録した2005年に比すると若干持ち直している。
しかし、2.08という人口置換水準にはほど遠く、
2010年に始まった人口減少は中長期的に持続することが予測される。

子ども数の減少は、主に人口減少やそれに伴う生産年齢人口の縮小、
経済社会の成長に及ぼすデメリットなどに目が向けられる。
では、「社会の未来」を託する子どもに向き合い、
子どもを育てる営みという面では、どのような視点が重要なのか。

和田修二氏(京都大学名誉教授)は、
ランゲフェルトの「子どもの人間学的研究」に関する解題の中で、
次の一節を引用している。
「顧みれば、人類の歴史はおおむね
無力さと単純さと残酷さによって彩られている。
けれどもその間にあって、細々ながらも独自の一章をなしているのは、
人間が子どもをどう取り扱ってきたかに関わる歴史であるといえよう。
人間が自らの無力さ、単純さ、残酷さといった
否定的特徴を克服しようとして、
自らに挑戦してきた長い自己克服の歴史は、
やがて遂に、未熟な力弱き存在としての<子ども>に関するより
妥当な見方や考え方の模索にも連なる。
けれども、科学や哲学、宗教や政治等から導き出された
従来の人間一般についての各種思考モデルのもとにあっては、
たとえ子どもが登場してくる場合でも、
専らそれは<保護される者>として、
あるいは<被験者>ないし<被術者>として、
あるいはまた何らかの仕事を<仕込む>ことのできる
<初心者>としてしか立ち現れてこない。
つまり<子ども>が主役としてスポットライトを浴びたことは、
これまで全く、あるいは殆どなかったといってよい。」

約半世紀前の記述であるが、
「こどもの日」にちなみ、「子ども数の減少」に着目し、
経済社会等への多様なダメージに言及する「外在的子ども観」の
限界、弱点を鋭くつく一節とも読める。
激動の未来社会が待ち受ける子どもに
レジリエンス(回復力)を培うには、
個々の子どもから出発した「内在的子ども観」こそが
重要だと説いているようだ。

引用:和田修二「子どもの人間学的研究=ランゲフェルト」
(金子茂・三笠乙彦編著:『教育名著の楽しみ』、1991年、時事通信社)

【プロフィール】
教育学専攻。
大学教員として45年間過ごし、現在は東京学芸大名誉教授、
国立教育政策研究所名誉所員、埼玉学園大学大学院客員教授。
少子高齢化、大震災などの社会変動の中の
「学校と地域社会」を主テーマに研究を進める。
と同時に、国や地方の各種審議機関の委員等もつとめてきた。
単著は、『人口減少社会の公立小中学校の設計
―東日本大震災からの教育復興の技術』(協同出版)、
『米国の学校の自律性の研究』(多賀出版)、
『小学校通学区域制度の研究―区割の構造と計画』(多賀出版)、
『よみがえれ公立学校』(紫峰書房)、『地域教育計画』(建帛社)。
その他編著、論文等多数。

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