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「人をつくる教育を考える―江戸時代の事例から(その12・最終回)」筆者・内藤徹雄

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温故知新

「温故知新」(古きをたずねて新しきを知る)とは、
「論語」に出てくる四字熟語ですが、
昔のことを調べて、そこから今日に活用できる新しい価値を
発見することは大切なことです。
昨年2月以来、11回にわたり、
江戸時代の教育の特徴的な事例をとり上げてきましたが、
今日でも十分応用可能なヒントが見つかりましたでしょうか。

例えば、意味が理解できない幼少のころより、
何度も声に出して文章を唱える素読、
これは言葉が自然に体にしみ込み、
成長するにつれて内容が理解できるようになる方法です。
素読は、毎年各地で開催される「藩校サミット」で
その成果が披露されていますが、
今日の教育では、音読や読み聞かせと相通じる方法といえます。

薩摩藩の郷中教育に見られる実践教育、
すなわち、人が生きる上で直面するであろう事例を提示して、
各個人に解決策を考えさせ、また仲間と討論を行う教育は、
現代の日本において、必要な教育方法ではないでしょうか。
小学生から大学生に至るまで、
郷中教育のような思考能力を高める教育は、
今後より複雑化する社会を生き抜く上で
大きな力を発揮することでしょう。

緒方洪庵の適塾に代表されますが、
福澤諭吉のような前途有為の青年達が、
寝食を忘れて学問に没頭する姿は、
今日では珍しいと思われます。
人智を超え限界を突き抜けるほど努力することは、
学問に限らず何事においても成功に通じる方法でしょう。

ひるがえって、教える立場からは、
吉田松陰の松下村塾の教育が参考になります。
教育の本質はまさに各個人の特性を見抜き、
発奮させてその長所を伸ばすことに尽きるのではないでしょうか。
凡人を非凡な人間に変える教育力、
これが松陰の偉大さであると思います。

さて、今回で私の連載は最終回となりますが、
ここで私が常々愚考している自説を述べさせていただきます。
我が国では戦後75年にわたり6・3制教育が行われ、
若者の多くは高校・大学の入学時に受験勉強を強いられています。
小学校の6年間に続く中高6年間は多感な成長期であり、
この時期を受験勉強中心に過ごすことは、
マイナス面が大きいと思われます。
すでに私立中高校や公立の中等学校などでは、
6年一貫教育が実施されていますが、
6・6制教育が望ましいのではないでしょうか。
受験にかかわりのないスポーツや芸術、
文学等に十分に親しむことが、
人間形成につながると思います。
グローバル化時代に必要なのは、
歴史観、哲学、文学、音楽等、
幅広い教養であると思いますが、いかがでしょうか。

【プロフィール】
1944年生まれ。東京外国語大学卒業。
都市銀行で20年あまり国際金融業務に携わる。
その後、銀行系シンクタンクのエコノミストを経て、
名古屋文理大学教授、共栄大学教授・副学長、
神奈川大学客員教授を歴任。
専門は国際経済、国際金融。
現在、学校法人中央学院常務理事、共栄大学名誉教授、
松実教育総合研究所理事。

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