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【進路コラム】「人をつくる教育を考える―江戸時代の事例から(その2)」筆者・内藤徹雄

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「全国藩校サミット」というイベントをご存知でしょうか。
この催しは、江戸時代の高い教育水準が、
日本の近代化に大きく貢献したことから、
日本各地に存在した藩校の理念や伝統を
現代に活かそうという試みで始まりました。
主催者は、東京の湯島聖堂を拠点に
漢字文化の普及活動を行っている、漢字文化振興協会です。
第1回大会は、平成14年(2002)に
江戸幕府の学問所であった湯島聖堂(昌平黌)で開催されました。
その後、会津(日新館)、水戸(弘道館)、
鹿児島(造士館)、福岡(修猷館)など、
毎年各地の藩校所在地が舞台になり、
直近では令和元年(2019)11月に
第17回大会が山口県萩(明倫館)で行われています。

筆者が初めて参加した、
第12回行田大会(埼玉県行田市)の印象は強烈でした。
広い壇上に所狭しと登壇した幼稚園児から小学生までの160余名が、
次々に論語を披露したのです。
幼稚園児が一斉に声を張り上げて、
「過ちて改めざる是を過ちという」といい、
小学校低学年の児童は、
「学びて時にこれを習ふ。また、よろこばしからずや」と唱和する。
高学年の生徒は、
「義を見てせざるは、勇なきなり」と朗々と高唱する。
子どもたちの声を聞いて、論語の言葉が彼らの血となり肉となり、
心の底からの魂の叫びを聞いているような感覚におちいりました。

行田では、平成に入り有志の手で
忍(おし)藩校進脩館の名にちなんだ進脩塾が開設され、
市民向けに『大学』『中庸』『論語』等の講座が、
また園児や小学生を対象に論語の素読教室が開催されてきました。
素読とは、意味内容は後回しで、
まず音読し暗唱することから学び始める方法です。
音読と暗唱を通して論語の言葉が自然に身につき、
成長とともに意味内容を理解するようになる素読教育は、
江戸時代の優れた教育方法であったといっても過言ではありません。
現代においても、
漢文教育だけでなく、国語や英語にも
応用できる方法ではないでしょうか。

さて、昨年開催予定の
第18回壬生大会(栃木県壬生町)はコロナ禍のため延期になり、
今年11月に開催が予定されています。
関心のある方は前記の
漢字文化振興協会(03-5577-2880)にお問い合わせください。

【プロフィール】
1944年 福井県生まれ。
東京外国語大学スペイン語科(国際関係課程)卒業。
太陽神戸銀行、さくら銀行(現、三井住友銀行)で
20年あまり国際金融業務に携わる。
その後、さくら総合研究所(現、日本総合研究所)エコノミストを経て、
名古屋文理大学教授、共栄大学教授・副学長、神奈川大学客員教授を歴任。
専門は国際経済、国際金融。
現在、学校法人中央学院常務理事、
共栄大学名誉教授、松実教育総合研究所理事。

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