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「私の好きな言葉・座右の銘(その8)」 筆者・城所卓雄

「門前の小僧習わぬ経を読む」
この諺は、江戸時代、
庶民の間から生まれた「いろはカルタ」の中にあり、
筆者がちょうど小学生時代に出あいました。
この諺の通り、「常に見たり聞いたりしていれば、
知らず知らずのうちにそれらを学ぶようになる」
と言われています。

筆者は、この諺について素晴らしい体験をしました。
小学校3年生のときのことです。
自宅には、お琴があり、3人姉妹がいました。
あるとき、姉妹が一緒にお琴を習うことになりました。
そうしましたら、お琴の師匠が、週2回自宅を訪れて、
姉妹にお琴の指導を始めました。
筆者は、音楽が大好きでしたので、
お琴の師匠の指導が始まると同時に、
その側でじっと指導振りを学んでいました。

そのうちお琴が自然に弾けるようになり、
ほぼ4年間経ったころには、
例えば、サクラサクラ変奏曲が弾けるようになりました。
お琴の師匠から直接一度も学んでいないのに、
お琴が見事に弾けるようになりました。
中学校に入学後、校内で演奏会などがあり、
中学生によるお琴の演奏の披露もありました。
筆者自身は、お琴は学んでいませんでしたが、
自分なりの判断で、
「ああ、あの生徒のお琴の演奏より私のほうがうまい」
と認識したこともありました。

在サンクトペテルブルク総領事館の総領事時代、
ロシアは日本の文化・芸術・武道などに
大変興味があった国でしたので、
日本の音楽の夕べなどの機会に
よく招待されたことがありました。
ある夕べの機会に招待されたとき、
何の前触れもなく、筆者(総領事)より、
「ちょっと、お琴の演奏をしてあげたい」と言って、
サクラサクラ変奏曲を披露したら、
会場からは、大きな拍手で
歓迎してくれたことがありました。

その当時はほぼ10年間、
お琴を弾いたことはなかったのですが、
小学生時代にお琴の師匠から
正式には学んではいなかったお琴でしたが、
一度身についたお琴は
決して忘れることはありませんでした。
正に、本格言の通りだなと今もって理解・認識しています。
本格言に近い英文は、
「A saint’s maid quotes Latin.」だと思います。

【プロフィール】
1969年、外務省入省、
在サンクトペテルブルク総領事を経て、
駐モンゴル大使を最後に、2011年11月外務省を退職。
東大の非常勤講師、名大の参与・客員教授・特任教授を経て、
現在、名大の非常勤講師。
モンゴル国立大学より
名誉経済博士号および名誉外交学博士号を授与、
モンゴル国立教育大学ならびに同医科大学より名誉教授、
同科学技術大学より顧問教授などの称号を授与。
2012年より、ライセンスアカデミーの学術顧問。
2020年、外交功労賞として瑞宝中綬章を受章。

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