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よろしく 筆者:橋本光央

日本人は、よく「よろしく」という言葉を使います。
どんなときでも最後に
「よろしくお願いします」としておけば、
相手に対して敬意を表しているような気がして、
つい使ってしまいがちです。
ちなみに「よろしく」を辞書で調べると
「うまい具合に」
「適切な配慮を願ったり期待したりして言う語」等とあり、
「無理を求めない程度、差し支えのない範囲において、
相手の厚意を期待する」という意味となっています。
このように、
相手に無理強いをしない「よろしく」という言葉を使えば、
なめらかで良好な人間関係を築くことができます。

ところが、英語には「よろしく」に対応する言葉がありません。
というのも、英語は考えの異なる民族間で
明確に目的を伝える言葉として発達したため、
曖昧な表現が使えないからです。
「よろしくお願いします」ではなく
「〇〇を△△してください」と、
はっきりさせないといけないのです。
ただ、目的を明確にして話すと融通が利かなくなります。
投げかけられた言葉に対して
「YES・NO」をはっきり答えなければならないし、
逆に「言われていないことはしなくてもいい」とか
「明記されていないことは何をしてもいい」という
契約社会特有のギスギスした人間関係に陥ってしまいます。
そういえば、アメリカには、
「説明書に『動物をチンしてはいけない』と書かれていないから、
猫をチンして殺した訴訟」という話がありました。

戦争は嫌です。
でも、戦争をしたい人なんて一人もいないのに
昔から国際紛争が絶えないのは、
もしかすると、
「互いに自己を主張し、一歩も譲らない言語感覚」に
その要因があるのかもしれません。
一触即発の緊迫した世界情勢の中にあって
「世界平和」をもたらすことができるのは、
互いになめらかな関係を生み出す
「よろしく」の感覚かもしれません。

声高にグローバルが叫ばれ、
日本文化が世界に広まりつつある現在、
Sushi,Karaoke,Tsunami,Mangaなどのほかに
Zen(禅)やSatori(悟り)も
英語として通じるようになってきた今だからこそ、
互いに厚意をもって適切で良好な関係を築くことができる
「Yoroshiku」が世界に通じる言葉となるよう、
願ってやみません。
世界中の皆さん、どうぞよろしくお願いします。

【橋本光央プロフィール】
1989年より大阪北予備校に勤務、
2007年より大阪国際滝井高校に勤務。
橋本喬木・天野大空のペンネームにてショートショートを執筆。
光文社文庫『ショートショートの宝箱』シリーズ等に作品掲載あり。
web光文社文庫にて作品を無料公開中。

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