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『好きだから』だけでいいのかな? 筆者:小林 英明(元都立高校進路指導主任・多摩地区高等学校進路指導協議会事務局参与)

介護福祉関連の企業や法人が職員採用に苦戦し、
早期離職に悩む話を聞くたびに気になることがある。
私がいた学校では毎年数名の生徒が、
介護福祉関係の就職や進学を希望していたが、
進路指導の中で介護福祉希望者の危うさを
感じることがしばしばあった。

面接指導では必ず志望の理由を確認する。
介護福祉希望者の場合、
答えは「身近に介護職員がいるから」と
「お年寄りが好きだから」のほぼ二つである。
気になるのは後者のほうだ。
「なぜ好きなのですか」と問うと、
その答えはほぼ共通している。
「祖父、祖母はいつも優しいし、
身の回りのお世話をしたとき、
とても感謝されてうれしかったから」である。
ここが心配の種である。
自分の祖父祖母が好きなことを、
安易に高齢者全般に広げている点が気になるのだ。

「目に入れても痛くない」かわいい孫が
自分のために何かしてくれる。
何物にも代えがたい喜びだろう。
おじいちゃんおばあちゃんからの
「ありがとう」は喜びの表現なのかもしれない。
好きだから、感謝されるとうれしいからだけで、
その道に入ったのでは、
ときとして大きなギャップを
感じるのではないだろうか。
介護福祉士養成校の学生から、
実習先の施設で何かに立腹した入居者から
マグカップを投げつけられたショックで実習を中断し、
結局は退学してしまったという
同級生の話を聞いたこともある。

私は介護福祉系を目指す生徒に、
厳しいようだがこう言っていた。
「仕事としての介護は、
自分のおじいちゃんおばあちゃんのお世話とは違うよ。
ときにはプロとしての介護を期待する人もいるし、
お年寄りは長い人生経験から
各々が自分の価値観を作り上げているから、
君たちの仕事を君たちと同じ価値観で
評価してくれるとは限らないよ。
だからプロになるためにしっかり勉強しなさい」
入り口は家族であっても、
職業にする以上はプロになる覚悟は必要だろう。

(元都立高校進路指導主任・多摩地区高等学校進路指導協議会事務局参与 小林英明)

【プロフィール】
1976年より都立高校教員。
2004年より都立拝島高校勤務、
2010年より進路指導主任として主に就職指導に当たる。
2019年3月定年退職。

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