「【若者の心の理解(2)】失敗を恐れる心のブレーキを外す」筆者・日本大学生物資源科学部 教授 熊谷圭二郎

この連載では、若者との関わりを心理学の視点から考えています。
今回は「失敗を恐れる心」について、一緒に考えてみたいと思います。

進路指導や職場での面談で、こんな言葉を耳にすることがあります。
「失敗したらどうしようと思って動けません」
挑戦したい気持ちはあるのに、最初の一歩が出ない。
そんな若者の姿に、もどかしさを感じた方も多いのではないでしょうか。

心理学では「成長マインドセット」という考え方があります。
能力は固定されたものではなく、経験や努力によって伸びていくという捉え方です。
この視点を持つ人は、失敗を「能力の証明」ではなく、
「学習の材料」として受け止めます。

ある先生から、こんな話を聞きました。
挑戦を避ける学生に対して、こんな声をかけたそうです。
「今回はうまくいかなかったね。でも、いいデータが一つ増えたね」

失敗を「評価の対象」にするのではなく、「学習の材料」として扱う。
すると学生の表情が少し緩み、次の行動を考え始めたそうです。

結果や才能を評価する言葉は、その瞬間はうれしく響きます。
しかし長い目で見ると、人を縛ることもあります。
人を育てる言葉は、「プロセス」に光を当てる言葉です。

うまくいかなかった経験の中には、次の一歩のヒントがきっと隠れています。
若者がそのヒントを見つけるとき、
私たちは隣で一緒に考えることができるのかもしれません。

もし明日、誰かが「失敗しました」と話してきたら。
その出来事の中に、どんな「データ」が隠れているか、
一緒に探してみませんか。

【プロフィール】
臨床心理士。日本大学生物資源科学部教授。
専門は教育相談、コーチング、教育心理学。元高校教師。
現場での実践経験に基づき、心理学の理論を
教育・組織の現場で活用できる具体的な手法として展開している。
著書に『教室「心理術」大全』(明治図書)など。