この連載では、若者との関わりを心理学の視点から考えています。
今回は「失敗を恐れる心」について、一緒に考えてみたいと思います。
進路指導や職場での面談で、こんな言葉を耳にすることがあります。
「失敗したらどうしようと思って動けません」
挑戦したい気持ちはあるのに、最初の一歩が出ない。
そんな若者の姿に、もどかしさを感じた方も多いのではないでしょうか。
心理学では「成長マインドセット」という考え方があります。
能力は固定されたものではなく、経験や努力によって伸びていくという捉え方です。
この視点を持つ人は、失敗を「能力の証明」ではなく、
「学習の材料」として受け止めます。
ある先生から、こんな話を聞きました。
挑戦を避ける学生に対して、こんな声をかけたそうです。
「今回はうまくいかなかったね。でも、いいデータが一つ増えたね」
失敗を「評価の対象」にするのではなく、「学習の材料」として扱う。
すると学生の表情が少し緩み、次の行動を考え始めたそうです。
結果や才能を評価する言葉は、その瞬間はうれしく響きます。
しかし長い目で見ると、人を縛ることもあります。
人を育てる言葉は、「プロセス」に光を当てる言葉です。
うまくいかなかった経験の中には、次の一歩のヒントがきっと隠れています。
若者がそのヒントを見つけるとき、
私たちは隣で一緒に考えることができるのかもしれません。
もし明日、誰かが「失敗しました」と話してきたら。
その出来事の中に、どんな「データ」が隠れているか、
一緒に探してみませんか。
【プロフィール】
臨床心理士。日本大学生物資源科学部教授。
専門は教育相談、コーチング、教育心理学。元高校教師。
現場での実践経験に基づき、心理学の理論を
教育・組織の現場で活用できる具体的な手法として展開している。
著書に『教室「心理術」大全』(明治図書)など。
