進路希望調査や面談で、こんな答えに出会うことはありませんか。
「特にありません」「まだ分かりません」。
その言葉を聞くと、「意欲がないのでは」「これで大丈夫だろうか」
と不安になることもあります。けれども、若者の本音は少し違うことが多いのです。
心理学では「内発的動機づけ」という考え方があります。
人が本当に動き出すのは、自分の興味や「楽しい」といった気持ちとつながったときです。
外から与えられた目標ではなく、「もっとやってみたい」と心が動いた瞬間に、
人は前に進みます。裏を返せば、まだ「やりたいこと」が見えていない若者は、
自分の心が何に動くのかを探している途中にいると言えます。
わたしが相談を受けた、ある先生は質問を少し変えてみました。
「将来何をしたい?」ではなく、こう尋ねたそうです。
「最近、つい時間を忘れてしまったことはある?」
すると学生は、ぽつりと話し始めました。
ゲームのこと、動画編集のこと、友人の相談に乗ること。
小さな興味の断片が、少しずつ見えてきたそうです。
大きな夢は、最初から見えているとは限りません。
問うべきは「何になりたいか」ではなく、
「何をしているときに生き生きしているか」なのかもしれません。
人のキャリアは、小さな「好き」や「得意」の積み重ねから形になる。
もし明日、若者が「特にありません」と答えたら。
その言葉の奥にある、小さな興味の種を探してみませんか。
未来は、まだ言葉になっていない「好き」から、静かに始まっていくのかもしれません。
【プロフィール】
臨床心理士。日本大学生物資源科学部教授。
専門は教育相談、コーチング、教育心理学。元高校教師。
現場での実践経験に基づき、心理学の理論を
教育・組織の現場で活用できる具体的な手法として展開している。
著書に『教室「心理術」大全』(明治図書)など。
