「銀河の一社」筆者・青木勝美

“みはりのしごと”、“バスのアナウンスのしごと”、“おかきの袋のしごと”、
“路地を訪ねるしごと”、“大きな森の小屋での簡単なしごと”。
これは、小説「この世にたやすい仕事はない」(津村記久子著)の主人公が
1年間に経験する仕事である。
新卒から14年間勤めてた仕事に燃え尽きた主人公は、「家からできるだけ近いところで、
1日スキンケア用品のコラーゲンの抽出を見守るような仕事はありますかね」
とハローワークの“相談員さん”に条件を出したところ、最初に“みはりのしごと”を紹介された。
個人の日常を監視する仕事(公安?)であった。
上司から素質があると言われながら、仕事に疑問を持ち契約更新はしなかった。
以後、“相談員さん”から次々と仕事を紹介されるが、職場での自分の立ち位置に不安を感じたり、
取り越し苦労の人間関係に悩んだり、やっと自分の居場所が見つかったと思ったら、
急に事務所が閉鎖されしまうという不運により、転職を繰り返す。
最後の章は、大企業が所有する広大な森林公園で、森林内の管理・監視をしながら
簡単な事務仕事をする静かな職場であった。しかし、ここで奇異な経験をしたことで、
14年間続けていた仕事に戻る決心をするのである。

昨今、転職が当たり前の時代と言われている。
終身雇用や年功序列の弱まりによって、生涯に亘って一つの会社に在職する前提が
なくなったことがある。また、実力やスキルを評価する会社が増え、
転職者を違和感なく受け入れる傾向になっていることが要因と考えられる。
ところが、新入社員の意識も変わりつつあるようである。
2024年から2025年に入社した新入社員を対象にした
「イマドキ新入社員の仕事に対する意識調査2025」
((株)日本能率協会マネジメントセンター 昨年12月公開)によると、
「現在の会社でずっと働きたい」と回答した新入社員は、
2016年調査開始以来最高の70.9%(20年比約21%増加)となっている。
その理由として、6月22日付けの朝日新聞に、関連記事が掲載されているので引用する。
「新入社員は、人間関係やワーク・ライフ・バランスといった働きやすさを重視しており、
インターンシップなどを通じ、職場の雰囲気や働きやすさをなどを見極めて入社している」、
「無条件の忠誠心ではなく、この会社で成長できるなら続けたいという
条件付きの定着意欲ととらえるのが実態に近い」、
「終身雇用への回帰ではない」と取材された担当の方が断言されていた。

さて、高校新卒求人の公開日7月1日を迎え、就職希望者の就活がスタートした。
ちなみに、昨年度の高校新卒全国求人倍率の平均は4.12倍(厚生労働省)であった。
今年度は世界情勢が、就職環境へ波及しないか心配であるが、
就職希望者は、数ある求人の中から就職したい企業を選ぶ作業に取り掛かる。
生徒は、「この世にたやすい仕事はない」と自覚しており、将来の「転職」など考えていない。
ただ、あまたある空に輝く星の中に自分の居所や成長できる場所を探すように、
“銀河の一社”を選ぶのである。

【プロフィール】
1983年4月より群馬県公立高校教員として勤務
学科主任、学年主任、保健主事、進路指導主事等歴任
2019年、平成30年度 専門高校就職指導研究協議会全国発表
2022年3月、群馬県公立高校教員完全定年(再雇用含む)
2022年4月よりライセンスアカデミー東日本教育事業部顧問として、
おもに就職関係の進路講演、面接指導等を各学校で行う