保護者のみなさまへ - 「志(こころざし)」を育てるキャリア教育

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「志(こころざし)」を育てるキャリア教育

「志」を育てる家庭教育の必要性

文教大学准教授 新井立夫先生の写真1

 日常生活及び学校教育の中において、「志(こころざし)」という文言は、死語に近くなってしまいました。
 その反面、「夢」や「希望」という言葉は、無責任なくらいに多用されています。
 学校入学後の決意表明や卒業文集では、ほとんどと言っていいくらいに、「将来の夢」について述べられています。そして、学校関係者も、人生において「夢を持ちつづけること」「夢を追って努力すること」が大切だ、とメッセージを送ります。今の若者が自分の将来に対して抱くべきものは、「夢」であり、大人から求められているのも「夢」であるようです。
 こうしたことは、一体いつごろからなのでしょうか。
 「夢」を否定するものではありませんが、その「夢」や「希望」の先にあるものは、およそ、「自己のため」という色合いの強い「夢」や「希望」です。
 「志」は、文字どおり「士」(さむらい)の「心」(こころ)と書きます。また、その意味は、「大辞林第二版」によれば、「心に決めて目指していること。また、何になろう、何をしようと心に決めること。人に対する厚意。人を思う気持ち」です。
 「志」は、「世のため、人様のため」という気高い思いや理想がその背景になっているという点で、「自己のため」である「夢」や「希望」とは異なっています。
 他者への配慮を持ち、公(社会)のため、人様のために私利私欲を捨て、奉仕の精神を持ち、心に決め、物事を成し遂げようとする決意を合わせ持つことこそが、「志」の意味するものなのです。
 現在、義務教育段階において、道徳の時間を活用して、多くの徳目を知識として覚えさせていますが、「志」を育てるためには、まず、人は「社会的存在として成り立っている」という事実を教えなくてはなりません。自己も大切ですが、自己の存在を、日常の社会生活の中から生じている事象や、関係づけの中から理解することこそが大切なのです。

「構え教育」は、家庭教育から!

文教大学准教授 新井立夫先生の写真2

 キャリア教育・進路指導のポイントは、「積極的受動態(積極的に受け入れる構え)」を相手につくらせることにあります。
 人が物事に向かうときには、身体と心がセットになった「構え」がなくてはなりません。
 例えば、勉強において「学ぶ構え」のない者に、何かを教えようとしても、少しも吸収されないものです。同様にスポーツの世界においても「構え」が必要であることは、いうまでもありません。
 これからの学校教育では、キャリア教育・進路指導においての知識・経験の豊富さによる「信頼関係」を構築すると同時に、お互いの「構えづくり」が指導の根本的なポイントになるといえます。
 古来からの日本の教育は、「構え」から入る教育でした。
 例えば、寺子屋において正座で師の話を聞く、などということは、現代の感覚では、合理的であるとはいえません。しかし、非合理的に思える「構え」の中に、別の意味の合理性があったのです。
 楽な姿勢を取りたいという気持ちを、あえて自己の意思でコントロールし、姿勢を崩さないようにすることで、話を聞く「構え」を作っていく。つまり、自分の身体を自分の意思で律して「構え」のコントロールをしていたのです。かつての日本の教育は、学問の内容と同時に、身体に対する意識の教育も行っていたのです。
 この「構え教育」の基礎は、家庭や日常生活における習慣による側面も強いため、家庭での毅然とした「構え教育」が、今こそ必要になってきているといえます。

自分探しの旅からの脱却

文教大学准教授 新井立夫先生の写真2

 現在、「夢を持つことはよいこと」という風潮が世の中に満ちあふれ、明らかに非現実的な夢であっても、その夢を他者が否定することは困難な状況にあります。
 学校での進路指導においても、教師が「夢」の実現性をチェックするゲートキーパー(門番)としての役割を担わなくなり、生徒に「夢を与える」「夢を見させる」アドバイザーとしての役割が重視されるようになってきています。しかし、いうまでもなく、「夢」とは受動的に叶うものではなく、能動的に叶えていくものです。
 本来、大人たちが生徒たちに対してなすべきことは、現在、生徒自身がいかなる状況に置かれているのか、「夢」を叶えるためには、いかなる努力を、どの程度する必要があるのか、を認識させることとなります。そして、それとともに、「志」を持ち、自ら「夢」に向かって、努力する必要があることをも、伝えていかなければなりません。
 ともすれば、「主体的な進路選択」という美しい響きの教育理念が、反面、「不本意入学」「終わりなき自分探し」などを多発させているのではないかと、疑問を感じざるを得ません。
 空想めいた自己概念(自己評価)を過度に持たせるのでなく、生徒自身に、自分を社会的存在として認識させ、現実の自己(今の自分)と理想の自己(なりたい自分)を思考し、「どのような自分になれるのか」という自分探しと折り合いをつけながら、「何にでもなれるという」チャンスを、自ら納得しながら狭めていく作業を行わせて、将来の自己像を描き直させていく教育が求められています。
 つまり、生徒自身が、保護者、教育関係者、大学、企業、地域社会などと関わりを持ち、「現実的吟味」を重ねさせうる「アクティブ・キャリア教育」的視点からのアドバイスか求められているのです。

■新井立夫先生のプロフィール

【略歴】

1959年8月 愛知県に生まれる
1984年4月 静岡県公立学校教員(教諭)任命(静岡県立稲取高等学校配属)
1997年4月 静岡県立松崎高等学校配属
2006年4月 「高等学校におけるキャリア教育の推進に関する調査研究協力者会議」審議委員:(文部科学省初等中等教育局長)(2007年3月まで)
2007年2月 「諸外国におけるキャリア教育」調査研究委員 イギリス(イングランド)団:(独立行政法人教員研修センター)
2007年4月 文教大学情報学部経営情報学科 専任講師、静岡県立下田北高等学校 情報科 非常勤講師(2008年3月まで)
2007年9月 下田商工会議所 経営相談課 簿記講習会講師
2008年4月 静岡県立下田高等学校 情報科 非常勤講師(2012年3月まで)
2009年4月 文教大学情報学部経営情報学科 准教授、静岡県立下田高等学校 商業科 非常勤講師(2012年3月まで)
2010年4月 神奈川県立藤沢清流高等学校 公民科 非常勤講師(〜現在に至る)
2013年4月 学校法人産業能率大学 情報マネジメント学部非常勤講師(〜現在に至る)
2014年4月 文教大学経営学部経営学科 准教授

【著書】

  • 「高等学校におけるキャリア教育の推進に関する調査研究協力者会議」報告書〜普通科におけるキャリア教育の推進0
    発行所:文部科学省初等中等教育局 2006年11月30日
  • 平成18年度「諸外国におけるキャリア教育」"「学校教育と職業教育との接続」はどのように行われているか"イギリス(イングランド)団調査研究報告書
    発行所:独立行政法人教員研修センター 2006年11月30日
  • 児童と心理2010年1月号 No.907 特集:志(こころざし)ある子を育てる◆子供のこころざしを育てる・「志」を育てるキャリア教育
    発行所:株式会社金子書房 2010年1月1日
  • 2010年度版「進路アドバイザー検定公式テキスト」
    発行所:大学新聞社 2010年4月10日