公認心理師は、心の悩みを解消できるようサポートする心理学のスペシャリストです。この職業に就くためには国家試験の合格による資格取得が必須なので、大学や専門学校などで十分な知識を身に着ける必要があります。本記事では、公認心理師の主な仕事内容や国家試験の概要などを紹介しています。実際に公認心理師を目指す方へ向けて、通った方が良い大学・学部についてもまとめましたので参考にしてください。
公認心理師とは
心理職の国家資格として、2017年に誕生したばかりの公認心理師。保険医療や教育、その他の分野において、心理学の知識や技術を用い、カウンセリングを通じて助言や指導をする仕事です。近年、国民の「心の健康に関する問題」は一言で表せないほど多様化・複雑化しており、国は早急な対応を求められていました。しかし、当時は関係者と協力しながら心理面のサポートを実施する国家資格がありませんでした。この事態を改善するため、2015年に成立、その2年後に施行された公認心理師法によって、国内初となる心理職の国家資格として生まれたのが公認心理師です。
公認心理師と臨床心理士の違い
「心理系の資格とは何か?」と聞かれた時、真っ先に「臨床心理士」を思い浮かべる人も多いでしょう。それくらい臨床心理士は心理系における代表的な資格です。一方、公認心理師は誕生して間もない資格のため、「臨床心理士の仕事と何が違うの?」と思われがちです。そのため、ここからは公認心理師と臨床心理士の違いについて、資格、カリキュラム、仕事内容に要点を絞って紹介していきます。
資格
公認心理師と臨床心理士の大きな違いは、資格の認定を行うのが国か民間団体かという点です。公認心理師は「公認心理師法」に基づく国家資格であるのに対し、臨床心理士は公益財団法人日本臨床心理士資格認定協会が認定している民間資格です。
国家資格である公認心理師は、試験の合格ならびに認定要件をクリアした上で申請すると得られる、免許や登録証などが存在します。
カリキュラム
公認心理師は大学4年間・修士課程2年間、最低6年間心理学のカリキュラムを履修する必要があります。もともとこの資格は臨床心理士の団体のみならず、臨床以外の分野の専門家や精神科医団体のディスカッションによって生まれた資格です。よって、公認心理師を育成するためのカリキュラムは、臨床心理学に偏らないよう網羅的に心理学や医学に関する知識を高められるよう作られています。
一方、臨床心理士は修士課程2年間のカリキュラムで養成されており、大学院に通いながら研究者としてのスキルを高められるのが特徴です。公認心理師よりも学習期間が短いのは、学ぶ分野が絞られているからでしょう。
仕事内容
公認心理師と臨床心理士は、ともに心の問題を解決するためのサポートを行う仕事です。公認心理師と臨床心理士とでは仕事内容に明確な違いはなく、どちらも、ありとあらゆる悩みに寄り添い、日常生活を送れるよう手助けをします。具体的に、公認心理師は心理査定・心理面接・関係者面接・教育や情報提供活動を実施します。臨床心理士も心理査定・心理面接・臨床心理的地域支援・調査や研究など、名称こそ異なるものの公認心理師と同じような仕事をしているのです。公認心理師が新しい資格であるため、現状それぞれの仕事内容に大きな違いはありませんが、今後公認心理師の資格を保有していないとできないことが出てくる可能性があるでしょう。
公認心理師の主な仕事内容
公認心理師の主な仕事内容は、心理的アセスメント・査定、心理的支援、関係者に対する相談や助言、心の健康教育の4つです。それぞれどのような仕事なのか、詳しく確認していきましょう。
心理的アセスメント・査定
心理的アセスメント・査定では、クライアント(相談者)の的確なサポートのために面接や行動観察、心理テストなどを行います。これらを実施し、クライアントの特性や心理的な問題の状況・深刻度、課題などを明確にするのが目的です。また、会話を通してクライアントへの適切な援助方法なども探ります。
心理的支援
心理的アセスメント・査定によって見えてきたクライアントの課題に対して、心理療法によるさまざまな方面からアプローチを行い、問題解決や心理的苦痛の軽減を図ります。代表的な心理療法には、認知行動療法やクライアント中心療法、芸術療法などがあります。
関係者に対する相談や助言
クライアントの心の状態や問題の内容によっては、クライアントを取り巻く人たちのサポートも行わなければなりません。公認心理師は周囲へ的確なアプローチをすることで、問題に関する根本的な解決を目指します。
心の健康教育
公認心理師は心の不調を改善するだけでなく、心を健康な状態でキープするための情報提供や啓発も行います。ストレスとの上手な向き合い方や悲しみ・怒りのコントロール方法などをレクチャーし、心の病気にかからないようサポートします。必要に応じて、専門機関の紹介なども行ないます。
公認心理師の資格を取得するには
公認心理師の資格取得には、区分A~Fまで6つの方法があります。そのうち区分A~Cは通常ルート、区分D~Fは特例措置ルートです。ここからは、通常ルートと特例措置ルートの特徴を解説していきます。
通常ルート
公認心理師の国家試験を受験するための通常ルートは、区分A~Cの3種類があります。
- 区分A:4年制大学または専門学校で所定の科目を修了し、さらに大学院で所定の科目を修了した人
- 区分B:4年制大学または専門学校で所定の科目を修了し、さらに2年以上の実務経験がある人
- 区分C:海外の大学で心理科目を修了し、海外の大学院で心理科目を修了した人
区分Aは4年制大学もしくは専門学校にて決められた科目を修了した後、大学院でも所定の科目を修了するという方法です。大学ならびに大学院で専門性の高い学習ができるので、国家試験の合格を目指すのにぴったりの方法と言えるでしょう。
区分Bは、区分Aと同様に4年制大学もしくは専門学校で国家試験に必要な勉強をします。区分Aと異なるのは、大学や専門学校を卒業した後に大学院へ進学するのではなく、2年以上の実務経験を積むという点でしょう。実務は、厚生労働省・文部科学省の定める施設で心理に関する支援業務を行わなければなりません。それ以外の施設や業務内容では受験資格を得られないので、注意が必要です。
区分Cは、海外の大学にて心理科目を修了した後、そのまま海外の大学院で心理科目を修了するという方法になります。
このように、通常ルートには複数の受験資格取得方法がありますが、どの方法を選択するにしても指定された科目の履修が絶対条件です。国の定めた必要科目の数は、大学で25科目、大学院で10科目となっています。心理学概論や研究法といった基礎的な科目から各分野に関する専門的な分野まで揃っているので、国家資格である公認心理師に欠かせない知識と技術を一通り学べるでしょう。
なお、区分Aや区分Cで国家試験資格を得る場合、大学ならびに大学院の修了証明が必須です。また、複数の教育・研究機関で履修した科目は合算できないので、必要科目は1か所の施設で履修しなければなりません。万が一、修了証明を提出できなかったり必要な科目を学んでいなかったりした場合は、必要科目の取り直しまたは5年以上の実務経験および現任者講習会を修了することで受験資格を得られます。
特別措置ルート
公認心理師における国家試験受験の特別措置ルートは、公認心理師法が施行される以前から臨床心理士として活躍している人や、臨床心理士になるために現在大学または大学院へ通学している人を対象としており、区分D~Fの3通りがあります。
- 区分D:2017年9月15日以前に大学院に入学し、所定の科目を修了した人
- 区分E:2017年9月15日以前に大学院に入学し、所定の科目を修了したあとに2017年9月15日以後に大学院で所定の科目を修了した人
- 区分F:2017年9月15日以前に大学に入学し、所定の科目を修了したあとに所定の施設で2年以上の実務経験を積んだ人
区分Dは、2017年9月15日以前に大学院に入学し、所定の科目を修了した人が対象です。2017年9月15日より前に大学に入って所定の科目を修了した後、2017年9月15日以後に大学院で所定の科目を修了したという場合は、区分Eに該当します。
区分Fは、以前に大学に入学し、所定の科目を修了した後に所定の施設で2年以上の実務経験を積んだ人が対象です。実務経験として認められる分野は、保険医療、福祉、教育、産業・労働、司法・犯罪の5つです。それに加えて、国の定めたプログラムを遵守した業務が行われているのも条件です。それぞれのルートで受験資格を得ると、国家試験を受験できるようになります。
また、中には「指定の科目を履修していないから受験資格を得られない…」と考えている人もいるかもしれません。大学や大学院で指定科目を修了していない場合でも、2022年9月までに実務経験を5年以上積んだ上で現任者講習会を修了していれば、受験資格を得ることが可能です。
進路ナビでは、公認心理師を目指せる大学や専門学校を紹介しています。公認心理師を目指すのに欠かせない知識や技術を身に着けられるため、以下のページから大学や専門学校を探してみましょう。
公認心理師国家試験の概要・出題範囲・合格率
公認心理師の国家試験に合格するためには、ゴールを意識した学習をするのがベストです。そのためには、まず試験期日や試験地といった試験概要を抑えておくと良いでしょう。また、試験の出題範囲や合格率は、学習を進める上で知っておかなければならないポイントです。ここからは、公認心理師における国家試験の概要や出題範囲、合格率などを解説します。
試験概要
公認心理師の国家試験は、2018年から毎年実施されており2023年度は5月14日(日)に実施されました。2023年9月時点の「日本心理研修センター」によると、次回2024年の公認心理師の試験概要は以下の通りでした。ぜひ参考にしてみてください。
試験期日 | 2024年3月3日(日) |
受験申込受付期間 | 2023年12月11日(月)~2024年1月9日(火)(消印有効)まで |
受験票交付日 | 2024年2月14日(水)よりダウンロード可能 ※郵送不可 |
試験地 | 東京都、大阪府 |
試験範囲 | 公認心理師として必要な知識及び技能 |
時間割 | 【午前】 試験時間 10:00~12:00(120分) 1.3倍受験者 10:00~12:40(160分) 1.5倍受験者 10:00~13:00(180分) 【午後】 試験時間 13:30~15:30(120分) 1.3倍受験者 14:00~16:40(160分) 1.5倍受験者 14:00~17:00(180分) |
合格発表日 | 2024年3月29日(金)14時予定 |
第7回公認心理師の国家試験開催日は、2024年3月3日(日)です。申し込み期間は2023年12月11日(月)~2024年1月9日(火)となっており、消印有効です。手続きは郵送または日本心理研修センターのホームページから可能なため、忘れず行いましょう。また、試験は午前と午後の2回に分けられており、午後のみの受験は受け付けていません。
出題範囲
公認心理師試験の出題範囲は、公認心理師として必要な知識及び技能とかなり広範囲です。しかし、出題範囲となる分野をすべて勉強していては、いくら要点を絞って学習したとしても時間が足りません。そこで、公認心理師試験では事前にブループリントという試験出題基準を公開しています。ブループリントは「公認心理師試験設計表」とも呼ばれており、出題範囲における大項目の出題割合が表記されています。認証心理士試験では、頻度や緊急性の高い分野から問題が出されるだけでなく、近年高まっている心理学のニーズを踏まえた、心の健康増進に欠かせない分野からも出題されるでしょう。
合格率
公認心理師試験の合格基準は、トータルスコア230点に対して138点以上を取った人です。この点数は全体の60%以上となっており、一見するとそこまで難しそうではないと感じる人も多いかもしれません。しかし、公認心理師試験は出題範囲が広く専門性の高い内容になっているので、しっかりと勉強をしなければ獲得できない点数です。
そんな公認心理師試験の合格率は50%前後となっており、比較的難易度の高い試験であるため、きちんと計画を立てて勉強を始めるのがベストです。
公認心理師の就職先・将来性
公認心理師は需要の高い職業ですが、今後も現在と同様もしくはそれ以上の需要があるのかというのも仕事として続ける上で非常に重要なポイントです。ここからは、公認心理師の主な就職先と将来性を解説していきます。
主な就職先
公認心理師はできたばかりの資格なので、公認心理師ならではの就職先や業務内容は現在のところ存在しません。では、どこで活躍しているのかというと、主に臨床心理士が活躍する領域であることがほとんどです。公認心理師は、病院や診療所などの保険医療施設、学校や学生相談室などの教育施設、企業内相談室や障害者就労・生活支援センターなどの産業関連施設、児童相談所や老人福祉施設などの福祉施設、裁判所などの司法・矯正施設に勤務する人が多いでしょう。雇用形態は「自分のペースで働きたい」という動機から非常勤を選ぶ人も増えています。
将来性
社会構造やライフスタイルの急速な変化を原因として、近年では心の問題を抱える人が増えています。公認心理師は心の健康を増進・維持するスペシャリストのため、活躍するシーンは今後も増えていく見込みです。また、以前と比べて心理職の国家資格である公認心理師の認知度や注目度は高まりつつあるという点でも、需要が高まることが予想されています。心理職はクライアントとのコミュニケーションを通して、心の問題の原因や解消方法、健康維持の方法などを見つけ出さなければなりません。このような業務は近年取り入れられているAIでは難しいため、今後も必要とされる職業と言えるでしょう。
まとめ
公認心理師は、人々の心の問題と向き合い悩みを解決へと導くことを目的とした、心理職における国内初の国家資格です。2017年に誕生したばかりの新しい資格ですが少しずつ認知度も高まっており、今後活躍の場が広がると予想されています。また、現在は臨床心理士と公認心理師の就職先や業務内容はほとんど同じです。しかし、将来的にの専門性を生かした仕事が生まれる可能性は高いでしょう。
資格を取得するには、4年制大学や専門学校で所定の科目を履修しなければなりません。しかも、必要科目が多いので、ポイントを押さえた効率の良い学習が重要となります。そのためには、心理学をはじめとした必要科目を、効率的かつ分かりやすく教えている大学を選ぶのがベストです。
進路ナビでは、公認心理師を目指せる大学や専門学校を紹介しています。
公認心理師試験の合格を目指すカリキュラムを用意しているため、以下のページから大学や専門学校を探してみましょう。