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「言葉のプロ」になりたいと思った

鈴木 聡 すずき さとし さん

 劇団「ラッパ屋」を主宰し、脚本・演出を手がけている鈴木聡さん。早稲田大学在学中に「演劇集団てあとろ'50」にて脚本・演出を担当。1982年、大手広告代理店に入社し、コピーライター、クリエイティブディレクターとしてCM制作に関わられました。現在では脚本家として演劇、映画、テレビドラマ、新作落語の執筆まで幅広く活躍されています。

ラッパ屋がホームグラウンド

 僕は、「ラッパ屋」という劇団を主宰しておりまして、そこがホームグラウンドになっています。いわゆる小劇場の劇団です。そこから僕のキャリアがスタートしていて、「ラッパ屋」の芝居を書きながら、頼まれて芝居を書くことも毎年何本かずつあります。また、テレビ局から依頼されて、単発ドラマの脚本を書くこともあります。基本的には演劇中心で、割とコメディが多いです。依頼してくれるプロデューサーや演出家はコメディテイストを期待しているみたいですね。僕自身、自分らしく書こうとすると大体そういう感じになってしまって、どのような依頼で書いても、結局は自分のテイストになってしまうことが多いですね。

登場人物が乗り移り、しゃべりながら書く

 当て書きというのは、俳優さんの顔や個性を思い浮かべて、それとミックスしていく形で登場人物を作っていく書き方です。僕の場合は、書くときにうまくいくと人物が勝手にしゃべり出すんです。勝手に喧嘩していたり。僕はしゃべりながら書くんですよね。登場人物が乗り移りながら書くんです。ですから、俳優それぞれの声というか、それぞれの個性といったものがよく分かっていたほうが当て書きしやすいですね。動き出さないときは本当につらいんですけど、動き出すとそれは非常に楽しいというか、快感に近いものがあります。

 逆に原作がある作品の脚本を書く場合は、既にストーリーが出来ていて、ちゃんと人物も出来上がっています。ここからが脚本家の職人的なところですが、既にある話を舞台にするとか、テレビドラマにするとか、俳優がしゃべる言葉にする作業をします。そうすると表現やディティールに集中できるんです。この職人的な作業が僕は割と好きですね。

 原作付きの場合は、原作自体が膨大な量になります。それを休憩込みで3時間ぐらいの芝居にするのにあたって、どこを割愛するか、どこをピックアップするか、芝居向けにどういうアレンジをするか、それによって作家性や自分なりのテイストが出てきます。

土日だけ稽古して、舞台をやる「週末劇団」

 僕は学生時代に演劇をやっていて、そこで作・演出を担当していたんです。当時は、才能にも実力にも自信が持てなかったので、卒業したら演劇をやめようと思っていました。ですが、僕は「言葉のプロ」を目指そうと思ったんですね。

 ちょうどコピーライターのブームが来ていた頃でしたので、自分に向いているかもしれないなと思って大手広告代理店に入社しました。その段階では、僕は「コピーライターでいこう!」と思い、そのつもりだったんですが、学生時代に演劇をやっていた仲間達が、「土日だけ使って演劇もやってみない?」と誘いに来ました。それならばやってみようということで、「ラッパ屋」の前身、「サラリーマン新劇喇叭屋」という劇団を立ち上げました。

 土日だけ稽古して、土日だけ公演をやって。「週末劇団」のような感じでした。それを、みんなが面白いって言ってくれたり、お客さんも公演のたびに増えていきました。三十歳ぐらいの頃に「ラッパ屋」でやった僕の芝居が話題になり、劇評も書かれるようになりました。そうして、プロの世界から脚本のオファーがあり、お仕事をするようになっていったんです。ただ、同時に僕は広告会社の社員であり続けたので、長年二足のワラジでした。当時は、毎日100本以上のキャッチフレーズを考えて、5つの会議をやって、さらに2個ぐらいプレゼンやって、家帰ってから芝居を2時間ぐらい書いて、それから2時間後ぐらいにはプレゼンに行ったり。そんな生活が10年ぐらい続いたんです。それは僕に「どんなオーダーでもこなすことができる」という自信をくれました。

演劇の脚本家になる方法に正解はない

 テレビドラマや映画の脚本家を目指すなら、学校に行ったほうがいいと思います。シナリオ学校などがいくつかありますよね。映像・ドラマに関しては、要求されるテクニックがはっきりしていると思います。ですので、勉強した分、力になると思うし、プロになる道筋もあると思います。けれども演劇は、なんでもいいんです。場合によっては、わかりにくくてもいいんです。演劇とは非常に多様で、芸術の側面もあるし、娯楽エンタテイメントの側面もあります。小劇場などで思いきりユニークなことをしたり、実験的なことをやるなど、いろんなタイプの演劇があります。演劇には「こうしなくてはいけない」というセオリーがないので、自分で決めていく、自分で生み出していく世界なんです。そういう意味では、どうすれば演劇の脚本家になれるのかという問いに関しては正解はないと思います。実際、今演劇界で活躍している人の多くは、自分で劇団を主宰して演出も作もやっているという人が多いですね。

自分の好きなことを見つけることが大事

 脚本家になりたいのであれば、学生時代に仲間を作ることですね。脚本を書くのは一人なんですが、芝居というものは仲間と作り上げるものです。仲間を見つけることがとても大事なことですね。学生時代でもそうですし、プロになってからもそうです。いろいろな仕事を通じて、この人とまた仕事をしたいと思ってもらえるようにしていかなければなりません。あらゆる仕事がそうですよね。次は、この人とこの人を結びつけようとか、世の中に出ても仲間探しということですね。

 仕事探しについては、自分の好きなことを見つけることが大事だと思います。好きなことっていろいろあると思います。確実に人生の3分の1の時間をそこに費やすわけですよね。これが好きなことじゃなかったら、つらすぎますよね。働く中で価値を感じられる、それが一番重要なことで、それを学生時代に見つけられるかどうかが大事なことだと思います。自分は何をしているときに一番楽しく感じるのかを考えてみてください。

(掲載日:2012-05-01)

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