「【若者の心の理解(4)】見えない壁、『心理的安全』を可視化する。」筆者・熊谷圭二郎

授業中に「何か質問はありますか」と声をかけても、教室が静まり返る。
職場でも「意見を言っていいよ」と伝えているのに、若手がなかなか発言しない。
こうした光景に、もどかしさを感じている方も多いのではないでしょうか。

若者が黙ってしまう背景には、「笑われるかもしれない」という不安があります。
それは、能力の問題ではなく、場の空気がつくる見えない壁によるものです。

心理学では、これを「心理的安全性」の問題として捉えます。
安心して発言できる場には、4つの条件があると言われています。
「質問しても大丈夫」
「失敗を話しても大丈夫」
「意見を出しても大丈夫」
「異論を唱えても大丈夫」
という安心感です。
これらが揃ったとき、人は初めて本来の力を発揮し、自律的に行動できるようになります。

ある先生は、授業の冒頭で次のような言葉を添えるようにしました。
「ここは、正しい答えを言ったり、うまく話したりする場所ではありません。
まだまとまっていない考えや、不完全な思いつきを言葉にしてみる場所です」
その一言で、生徒の発言が少しずつ増えていったそうです。

発言を促す前に、まず安心をつくる。
人が動くのは、求められたときではなく、心から安心できたときです。

もし明日、若者に意見を求める場面がありましたら、その前にこう伝えてみてください。
「間違いでも、自信がなくても構いません。あなたの考えを教えてもらえますか」
その一言が、見えない壁をそっと低くしてくれるはずです。

【プロフィール】
臨床心理士。日本大学生物資源科学部教授。
専門は教育相談、コーチング、教育心理学。元高校教師。
現場での実践経験に基づき、心理学の理論を
教育・組織の現場で活用できる具体的な手法として展開している。
著書に『教室「心理術」大全』(明治図書)など。