亡くなった方のご遺体をきれいに整え、棺に納める「納棺師」。故人や遺族に寄り添い、心を込めて最期のお手伝いをする尊い仕事です。故人を送り出す儀式を行う職業なので「おくりびと」と呼ばれることもあります。将来の進路を考えている学生さんの中には、納棺師の仕事に興味を持っている人もいるのではないでしょうか。納棺師になるためにはどんな学校に進学すれば良いのか、特別な資格は必要なのか、気になりますよね。この記事では納棺師として働きたいと考えている学生さんに向けて、納棺師の仕事内容や就職先、必要な資格、進学先の選び方を紹介します。ぜひ、進路選びの参考にしてみてくださいね。
納棺師は特別な資格は必要なし
納棺師になるために必ず取得しないといけない資格はありません。ご遺体の整え方や納棺儀式のやり方は納棺師や宗派によって異なるため、共通した知識や技術を学ぶ資格が存在しないのです。そのため学歴や資格の有無に関わらず、誰でも納棺師を目指すことができます。納棺師を目指す学生さんが今後の進路をイメージしやすいよう、高校卒業から納棺師になるまでのルートを表にまとめました。
納棺師を目指すには、納棺師になるための知識を学べる専門学校や「おくりびとアカデミー」のような養成学校で学んでから就職するルートが一般的です。おくりびとアカデミーは「死=人生の終焉」をサポートできる人材を育成している日本唯一の納棺師養成学校です。葬儀業界のプロから納棺師になるための知識や技術、心構えを学ぶことができます。納棺師には資格がないため、上記の学校へ進学せず、大学や短大を卒業した後に葬儀会社や納棺・湯灌専門の会社に直接就職する方法もあります。もちろん高校卒業後にそのまま就職することも可能です。
納棺師が専門性を高めるために取得したい資格
納棺師になるために特別な資格は必要ありませんが、下記のような資格を取得することで、納棺師としての専門性を高めることができます。
資格名 | 内容 |
---|---|
葬祭ディレクター技能審査 | 葬祭業界で働く人の中でも、一定以上の技術・知識・能力を備えていることを証明できる資格 |
IFSA認定の資格 | エンバーマー(ご遺体を長期的・衛生的に保全する職業)として働くための資格 |
専門的な資格があれば、業務の幅や就職先の選択肢が広がったり収入アップに繋がったりと働く上でのメリットも大きいでしょう。ここからはそれぞれの資格について詳しく紹介します。
葬祭ディレクター技能審査
葬祭ディレクターとは、喪主や遺族の希望に応える葬儀を提案し、葬儀の段取り、会場設営、式の進行をする人のことです。葬儀を総合的に取り仕切る仕事のため、葬祭に関する高い知識・技術・能力が求められます。葬祭ディレクターには1級と2級があり、受験条件は下記の通りです。
- 1級…葬祭実務経験を5年以上有する者、または2級合格後2年以上実務経験を有する者
- 2級…葬祭実務経験を2年以上有する者
「葬祭ディレクター技能審査」は厚生労働省が認定した制度で、個々のディレクター資格の認定は「葬祭ディレクター技能審査協会」が独自に試験を実施しています。葬祭ディレクターは国家資格ではありませんが、資格を持っていれば納棺師としてのキャリアアップにもつながるでしょう。
IFSA認定の資格
一般社団法人日本遺体衛生保全協会(IFSA)認定の資格は、エンバーマーとして働くために必要な資格です。エンバーマーとは専門技術を用いてご遺体の消毒・防腐・修復といったエンバーミングと呼ばれる措置を行う人のことを指します。エンバーミングをすることで故人をご生前の姿に近づけられるため、遺族の心のケアにも繋がります。一般的に、海外で亡くなった方や火葬までの日が空いてしまうケースに施されます。IFSA認定の資格は国家資格ではありませんが、納棺師としてキャリアアップしたい人に最適です。
納棺師の仕事内容4つ
納棺師に興味を持っていても、具体的にどんな仕事をするのか分からないという学生さんも多いかもしれません。納棺師は、亡くなった方のご遺体をきれいに整えて棺に納める「納棺の義」を執り行うことが主な仕事です。一般的に納棺の儀は下記のような流れで行います。
湯灌 | 入浴させたりアルコールで体を拭いたりしてご遺体をきれいにする |
お着替え・見繕い | 死装束へ着替えさせる |
死化粧 | 故人の姿を生前の状態に近づける |
納棺 | ご遺体を棺に納める |
遺族が穏やかに別れのときを迎えられるよう故人の姿を整えることが納棺師の役割です。ここからは納棺師がどんな作業を行うのか、さらに詳しく解説します。
湯灌
湯灌とは、ご遺体をきれいにする作業のことです。アルコール綿で体を拭いたりしてご遺体の衛生状態を保ちます。湯灌には「現世での痛みや悲しみを洗い流し、安らかに旅立てるように」との想いが込められています。
お着替え・見繕い
湯灌のあとは死装束へのお着替えを行い、頬に綿を詰めて死後硬直した顔を柔らかい表情にします。ご遺体の腐敗を防ぐため、ドライアイスを仕込んだり体内に防腐液を注入したりする作業も行います。
死化粧
遺族の希望に沿って、髭を剃ったり化粧で血色を整えたりして自然な姿に整えていきます。故人を生前の姿に近づけることで、遺族や葬儀に参列された方々が安心してお見送りできるよう準備を進めます。
納棺
全ての支度ができたら、最後にご遺体を棺に納めます。納棺は遺族が手を添えて行うケースも少なくありません。その後は布団をかけたり手を組ませたりして状態を整え、遺族が思い出の品などを棺に納め、棺のふたを閉じて、納棺の儀は終了です。仕事内容だけでなく、仕事のやりがいも分かると働くイメージが湧きやすくなります。進路ナビでは、実際に納棺師として働いている方へのインタビューを掲載しています。ぜひこちらの記事もチェックしてみてください。
納棺師の就職先
納棺師の仕事内容は分かったものの、実際にどんな就職先があるの?と気になる学生さんもいるでしょう。納棺師は主に葬儀会社や納棺・湯灌を専門としている会社に就職することが一般的です。しかし葬儀会社の場合、希望の部署に配属されないケースや就職先に納棺師の仕事がない可能性もあります。そのため納棺師の仕事だけをしたいと考えている人は専門の会社に就職すると良いでしょう。
超高齢化社会を迎えた日本では、葬儀業界への新規参入企業が増加しています。葬儀会社は開業にあたって許認可や届け出が必要ないため正確な実数は把握できませんが、経済産業省が公表した『平成30年 特定サービス産業実態調査報告書 冠婚葬祭業編』によると、全国の冠婚葬祭事業所数は9,092カ所となっています。また様々な業界の企業情報をデータベース化している株式会社Baseconnectが公開している『葬儀業界の会社・企業一覧(全国)』には、7912件(2024年9月3日現在)が掲載されています。葬儀業界の会社は日本全国に数多く存在しているため就職先の選択肢は広く、2040年にピークを迎えるとされる多死社会に向けてさらに増加すると考えられるでしょう。
参考:平成30年 特定サービス産業実態調査報告書
参考:Baseconnect株式会社
納棺師は「高齢化社会」に向けて需要がある
納棺師を目指したいと考えている学生さんの中には、納棺師の将来性について知りたい人もいるのではないでしょうか。結論から言うと、納棺師は今後も需要が高いことが見込まれ、将来も必要とされる職業だと言えます。なぜなら納棺師は景気に左右されることなく、少子高齢化によって、今後も増え続ける仕事と見込まれているからです。総務省が公表している資料「統計からみた我が国の高齢者―「敬老の日」にちなんで―」によると、2023年9月15日現在、総人口に占める高齢者の人口割合は29.1%と過去最高でした。高齢者人口が増えることで必然的に死亡者数も増加するため、葬祭業界の需要は今後も高まるでしょう。
さらに納棺師は人の気持ちに寄り添う仕事だからこそAIには変えられません。遺族が故人との最期の別れを穏やかに迎えられるよう、納棺師には専門的知識・技術だけでなく遺族の心を理解してケアできるスキルも求められます。
参考:統計からみた我が国の高齢者 | 総務省
納棺師の給料は月約28万
将来就きたい職業について考える際、お給料はいくらもらえるのか気になりますよね。厚生労働省による「令和4年賃金構造基本統計調査」を参考に、納棺師の平均的な給与額を下記の表にまとめました。
年収 | 約380万円 |
月平均 | 約28万円 |
賞与・ボーナス | 約45万円 |
納棺師の平均年収は約300万〜400万が相場となっています。ただし、納棺師だけの平均年収は明らかにされておらず、上記の数値は葬儀屋などを含む「その他のサービス職業従事者」の平均月給である点に注意しましょう。国税庁によると令和4年の給与所得者全体の平均年収は458万円だったので、納棺師の給与は平均よりは少し低くなっていますが、納棺師の給与は会社の規模や地域によっても大きく異なります。一般的に葬儀全般を取り扱う葬儀会社のほうが、納棺・湯灌を専門に行う会社よりも給料は高い傾向にあるようです。というのも、専門会社は葬儀会社から依頼を受けて仕事をする下請けになるためです。また、近年需要が増えているエンバーミングの技術を習得することも納棺師の収入アップに繋がるでしょう。
参考:賃金構造基本統計調査|厚生労働省
参考:令和4年分 民間給与実態統計調査|国税庁
納棺師に向いている人の特徴4つ
納棺師の仕事に興味があるけれど、自分は納棺師に向いているのか?と気になっている学生さんもいるでしょう。ここからは納棺師に向いている人の特徴を4つ紹介します。
思いやりのある人
他人の気持ちを思いやることができる人は納棺師に向いていると言えます。納棺師は「死」と向き合う仕事であり、悲しみに暮れる遺族の気持ちに寄り添いながらコミュニケーションをとり、業務を行う必要があります。ご遺体を棺に納めるだけでなく、遺族が故人との最後の別れを納得できる形で行えるよう気持ちの面でサポートすることも納棺師の大切な仕事です。
冷静で強い精神力がある人
納棺師には、冷静で強い精神力が求められます。仕事をする中では、交通事故などが原因で損傷が激しいご遺体の処置を行うケースも珍しくありません。ご遺体を前に悲しみに暮れる遺族もいらっしゃることでしょう。納棺師はどんな時にも感情移入しすぎず、常に冷静に仕事に向き合うメンタルの強さが必要です。
体力に自信がある人
納棺師には体力も必須です。納棺師は依頼を受けた後、葬儀を執り行うまでの短時間で納棺を行ないつつ、ご遺体を清める湯灌や着替え、棺の運搬など重労働の作業が多いため体力が必要です。納棺師は精神的にも体力的にもタフな人が向いている仕事だと言えるでしょう。
手先が器用な人
手先が器用な人も納棺師に向いています。ご遺体の損傷加減によっては現場で修復作業が必要になる場合もあります。また死化粧や着替えの際は、ご遺体を傷つけることなく、細かな作業を丁寧に行わなければなりません。死後硬直した頬に綿をつめて表情を柔らかくするなど手先を使う作業が多くあるため、器用な人は納棺師の適性があるでしょう。
納棺師を目指す学校の選び方
納棺師を目指すために、どんな進路を選択すれば良いかお悩みの学生さんもいますよね。納棺師になるために必須の資格はありませんが、専門的な知識や技術を学べる専門学校へ進学することで仕事に必要なスキルを身につけることができます。専門学校へ進学する際は「湯灌納棺師コース」やエンバーマーの資格を取得できる学科を選択するのも手です。また国内唯一の納棺師育成学校「おくりびとアカデミー」に進学する方法もあります。これまで200名以上の納棺師を育成した実績のある学校なので、必要な知識・技術をしっかりと学ぶことができます。進学する学校を選ぶ際に注意したいポイントは下記の通りです。
- 卒業生の就職先や就職率をチェックしておく
- 幅広い勉強をしてから納棺師を目指したい人は、大学や短大に進学する
卒業生の就職先や就職率を調べた上で学校を決めておくと安心です。また、納棺師には必須の資格・学歴がないので、まずは大学や短大に進学して幅広い知識を学んだ後に葬儀会社や納棺・湯灌の専門会社に就職する方法もあります。納棺師になるルートは様々なため、自分のキャリアや就職したい会社をじっくり考えた上で進路を選びましょう。「進路ナビ」の学校検索機能を利用して資料請求を行うと、葬祭や納棺師の勉強ができる学校がわかります。こちらのページから大学や専門学校を探してみましょう!
納棺師に必要な知識を学べる学校を探そう
納棺師になる方法や具体的な仕事内容などについて詳しく紹介しました。納棺師は景気に左右されない職業であり、超高齢化社会を迎えた日本では今後も高い需要が続くと考えられます。納棺師になるためには専門学校や納棺師育成学校を卒業するルートが一般的ですが、大学や短大卒業後に葬儀会社に就職する方法もあります。自分に合った進路を選んで納棺師を目指しましょう。
「進路ナビ」では納棺師を目指せる学校を紹介しています。しかし、実際にどんなことを学べるかは各校の専攻やカリキュラムを調べてみないと分かりません。「進路ナビ」の学校検索機能を利用して資料請求を行うと、各校の詳しいパンフレットを取り寄せる事が可能です。他にも「進路ナビ」では、「興味のある分野」や「通学希望エリア」を選ぶだけで、進路アドバイザーから無料でおすすめの学校情報をお届けします。進路について悩んでいる、興味のあることを勉強するための選択肢がわからないという人も是非ご活用ください。