成果が目に見える園芸の世界には、 大きなやりがいと楽しさがあります。

杉井 志織   さん

 1972年生まれ、埼玉県出身。建築の専門学校を卒業後、フラワースクールにて植物の生態やディスプレイ、アレンジメントなどを学ぶ。赤坂アークヒルズのアシスタントガーデナーとして活躍。現在はNHK Eテレにて放送の『趣味の園芸』に講師として出演するほか、全国のイベント装飾、執筆活動と活躍の場は多岐にわたる。

 園芸研究家として、NHK Eテレにて放送の『趣味の園芸』への出演やイベント時の植物を使った装飾、園芸教室の開催と、あらゆる現場を舞台に植物普及のために精力的に活動されている杉井さん。現在に至るまでの経験や、植物を使って空間や人の魅力を引き出す仕事の楽しさややりがいを語っていただきました。

土いじりがきらいな幼少期、 植物や園芸とは無縁の学生時代でした

 正直なところ、社会に出て働くようになるまでは全く園芸に興味や関心がなく、小学校でトマトを育てた時も、お世話が面倒だと思っていたくらい、生活環境に植物があっても、植物には関心を持つことなく過ごしてきました。
 高校卒業後、建築関係の仕事を目指して進学した専門学校で、学生食堂の設計課題が出ました。私は緑あふれるジャングルのような食堂を計画していたのですが、設計図を書いている時、「葉っぱを適当に埋めればできたと思うな」と先生に注意され、植物についての知識が全くないことに気づきました。自分の理想とするサンプルは植物文献には載っていない、知識がなければ自分で勉強するしかないと、切り花の教室に通い始めたのが、植物と対面するきっかけでしたね。

ひとつの鉢植えからはじまった仕事が、ビルの緑化プロジェクトにたどり着いた

 切り花教室の先生の勧めもあり、より深い知識や感性を学ぶため、花屋になるためのスクールに通いはじめました。ハードな毎日でしたが、たくさんの植物とふれ合うなかで綺麗に仕上がるおもしろさを感じ、実技や実習が多いのもとても楽しかったですよ。
 卒業後は切り花専門店で働きました。現在の仕事につながるきっかけとなったのは、鉢植え専門の花屋を一緒にやろうと誘われ出合った“コンテナガーデン”。ガーデニングという言葉がこれから広く浸透していく時代でしたので、仕事が軌道に乗るようになると、今度は都市の緑化計画に誘われ、開発業者と組んで、都市のビルの屋上緑化に携わるようになりました。ひとつの小さな鉢植えからはじまった仕事が大きなビルの緑化プロジェクトにまでたどり着くなんて、想像もしていなかったです。

出来上がりが読めない植物相手の難しさ、形になったときの喜びは格別です

 園芸の世界は結果が目に見えてわかるのが怖いところでもあります。環境や天候などにも出来映えが左右される植物が相手だからといって、失敗の言い訳にはなりません。期待に応えなければと重圧を感じることもあります。それでも信頼していただいている仕事ですから、私にお願いして良かったと思ってもらえる結果を出そうといつも思っています。失敗を失敗で終わらせないためには、どう挽回していこうかと前向きに考えることと、周りの人の協力が不可欠ですね。
 現在はイベントの装飾や園芸教室などの仕事のかたわら、東日本大震災で浸水被害を受けた中学校に花壇を造るボランティアを続けています。校長先生に「植物で子供たちの心のケアをしてください。」と声をかけていただいたとき、植物は本当に人の心を癒すことができるんだと実感しました。形が見えるからこそ、癒しや喜びを与えられる仕事でもあります。

たくさんのことに興味をもって、まずは実践することが大切

 たとえばファッション業界のように、植物業界には流行の指針になるものがないんです。ですから私は、異業種には常にアンテナを張っています。みなさんも、高校時代は何か好きなことがあったらそれだけに固執するのではなく、いろんなことに興味や関心を持って、引き出しをたくさん持つことをお勧めします。いまはそれが何につながるか分からなくても、頭の片隅に残っていれば良いと思います。大人になった時に、例えば園芸ですと「どんなデザインが人から喜ばれるか」「どんな企画をいま人が必要としているか」といった、あらゆる仕事において一番大切なことを考えるための糧になるはずだからです。
 情報が簡単に手に入る時代だからこそ、まずは自分で情報をよく理解して、実際に触れたり実行することでようやく自分のものになり、やがて自身の世界観として表現できるようになると思います。

(撮影協力/実野里フェイバリットガーデン)

INFORMATION

『3ポットから作れる寄せ植え』
3~4種類の植物で素敵に作ることができる、シンプルで作りやすい寄せ植えを、季節ごとに紹介。杉井さんの作品も掲載されています。可愛くておしゃれな寄せ植えをみなさんも作ってみませんか。

(掲載日:2015-05-25)

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