前回(2025年8月9日掲載)のコラムで、
面接準備では学校内外の経験や活動の話題をどのように展開して、
自分の能力や特性を面接官にアピールするかを考えておくことが大切であり、
その回答に対する試験官からの「再質問」への対応準備はさらに重要であると述べた。
今回はその準備に関する実例を紹介しよう。とは言っても、
私たちが一人の生徒に対応できる時間は短く、最長でも20分程度である。
残念ながら毎回、面接準備の「ヒント」を提供する程度で終わってしまう。
この時は約60分で12名の就職模擬面接という依頼だった。
入退室は省略可であったが交代時間を考えると個人面接は無理なので、
4名のグループ面接の形をとった。これならば一人あたり4分強の時間がとれる。
開始前に確認すると縁故就職者以外は志望企業未定、希望職種も未確定だった。
そこでテーマは高校生活を通しての自己アピールにした。
その時の生徒とのやり取りである。
(生徒の発言は要旨、カッコ内は私の心の声である。)
私「今までの高校生活で印象深い出来事は何ですか」
生徒「修学旅行です」
私「どのような出来事があったのですか」
生徒「はい、広島の原爆資料館を見学して・・・平和の大切さを・・・(以下略)」
(平和教育は大切だが、定番の回答では生徒像はつかめない。
突っ込んだ質問で思想信条に関わってしまうのも困る。話題を変えよう。)
私「そのほかに修学旅行中の出来事で何かありますか」
生徒「班別行動です」(単語での回答が多い。回答の組み立て準備が不十分なようだ。)
私「班別行動で何かあったのですか」
生徒「コースを決める時にみんなの行きたい場所が違うので、
なかなか決まらず困りました」(おきがちな話だがこの答え方からみると班長かな。)
私「あなたは班の中で何か役割がありましたか」
生徒「はい、班長です」(やはりそうか。班長としての働きから何かつかめそうだ。)
私「班長としてその場をどのようにまとめましたか」
生徒「はい、各自がその場所をコースに入れたい理由を言って、
支持が多い場所を選びました」
私「その方法はあなたが考えたのですか」
生徒「多数決で決めようという意見があったのですが、ただの多数決よりも
そこに行きたい理由をみんなが言ってからのほうが良いと思い私が提案しました」
時間がないのでここまでで終了し、今の展開のポイント解説に移ったが、
時間があれば「なぜみんなに勧めたい理由を聞いてからのほうが良い、と思ったか」や
「班長になった経緯」などを聞いてこの生徒の性格や能力をさらに引き出せただろう。
修学旅行や遠足の班長のように履歴書に書かない「役割」はたくさんあるが、
高校生は日常の些細な出来事の積み重ねで成長する。
自己アピールは小さな出来事からでも充分に可能である。
【プロフィール】
1976年より都立高校教員。
2004年より都立拝島高校勤務、
2010年より進路指導主任として主に就職指導に当たる。
2019年3月定年退職。