(※編注:こちらのコラムは3月中旬に執筆いただきました)
岩手県で3.11を経験した私は、今でも3月になると気持ちが落ち込みます。
卒業式を迎えることは喜ばしいことですが、
どうしても14年前に卒業式を迎えられなかった生徒たちのことを思い出し、
晴れやかな気持ちにはなれません。
さて、これまで11回にわたり、教師のリーダーシップと勢力資源について述べてきました。
今回は、それらの関連についてお話ししたいと思います。
4月、新たに出会ったばかりの生徒たちは、まだ互いの約束事などが定まっていません。
学級全体も緊張感があり、混沌としています。
こうした時期には、指導力の強い「教示的リーダーシップ」が有効でした。
生徒に具体的な行動の仕方を示し、着実に実践させることで、
学級に秩序をもたらすことができるからです。
4月いっぱいは「教示的リーダーシップ」が必要だと言えます。
では、教師は生徒にどのような勢力資源を持ってもらうことが重要でしょうか。
指導力を発揮するためには、「正当性」と「罰」の勢力資源を持ってもらうことが
望ましいと考えられます。しかし、現代において教師の指導者としての役割の
重要性や社会的地位が、以前ほど当然視されていない状況があります。
そのため、指導力を発揮しにくいという現実があります。
4月の学級づくりでつまずく教師が多いことからも、それが理解できるでしょう。
「正当性」を用いて指導することは年々難しくなっており、
また、指導性の強い「罰」も教育上、望ましい方法とは言えません。
では、どのようにすればよいのでしょうか。
私は、「罰」の勢力資源も工夫次第で教育現場で活用できると考えています。
指導を「罰」と受け取られないように事前に示しておくという方法です。
実際、近年では、多くの高校で、「生徒指導」の内規、特に懲戒規定等が公開されています。
事前に予想される問題行動への懲戒処分の上限を示しておくことで、
指導と受け止めやすくしています。
その際に留意することは、生徒や保護者に内容を十分に説明し、
理解に基づいたうえで、入学誓約書を提出してもらうということです。
「罰」と受け取られないようにするために、
事前に「契約」を交わしてから、契約に則って指導するのです。
また、できれば、望ましい行動のモデルを示す指導等も行うことが大事です。
このように、教師のSLリーダーシップ理論の
4つのリーダーシップに対応した勢力資源があると考えられます。
次回は、説得型リーダーシップに対応した勢力資源を述べたいと思います。
この3月、岩手県大船渡市では山火事が延焼しました。
家族で幾度もキャンプに訪れた思い出の地が被害を受けていることに胸が痛みます。
3.11、そして山火事と、大変なことが続きますが、また復興していくでしょう。
心を癒やし、穏やかな気持ちにさせてくれた大船渡の緑が、
一日も早く戻ることを願い、復興を応援したいと思います。
引用文献
ポール ハーシィ、デューイ・E. ジョンソン、ケネス・H. ブランチャード
『入門から応用へ 行動科学の展開【新版】―人的資源の活用』(2000、生産性出版)
河村茂雄『教師のためのソーシャル・スキル―子どもとの人間関係を深める技術』
(2002、誠信書房)
【プロフィール】
2015年から現職。専門領域は「教育学」「教育カウンセリング心理学」
研究テーマは教育困難校での支援