さて、前回(2025年9月10日掲載)のコラムでは、
「自分や他人の価値に対する基本的な見方」を4つのタイプに分けた、
「人生態度」という考え方をご紹介しました。
今回は、それをもとに、先生方が生徒と接する際の関わり方を、
より具体的に見ていきたいと思います。
では、学校現場で特に見られやすいタイプから順にご紹介します。
(3)「わたしはOK、あなたはNG(OKではない)」のタイプ
このタイプの教師は、「自分は正しい」「生徒は間違っている」と
無意識に感じていることが多いです。特に、経験を積んだベテランの先生方の中には、
この立場になりやすい方がいるかもしれません。
教師と生徒の間にはどうしても上下関係が存在しやすく、
その中でこの見方が生まれることがあります。
このタイプの教師は、指導力がある一方で、
生徒の意見に耳を傾けず、自分の考えで相手を動かそうとする傾向があります。
命令や叱責が増え、一方通行のコミュニケーションになりがちです。
こうした関わりが続くと、生徒との信頼関係が築きにくくなり、
教師の目が届かないところでトラブルが起こることもあります。
その結果、教室や学校全体に緊張感や対立が広がってしまう可能性もあるのです。
たとえば、忙しさやストレスの中で「あの生徒はどうせダメだな……」などと
感じることがあるかもしれません。そんなとき、人は知らず知らずのうちに
「あなたはNG」という目で相手を見てしまい、関係がぎくしゃくしてしまいます。
だからこそ、自分が今どんな「人生態度」に立っているのか、
一度立ち止まって振り返ってみることが大切です。
(2)「わたしはNG、あなたはOK」のタイプ
このタイプの教師は、自分にあまり自信が持てず、生徒を優先的に考えてしまいがちです。
不安を抱えやすく、必要な場面で指示を出すのが苦手という特徴があります。
特に、若手の先生方に多く見られる傾向だと思います。
たとえば、生徒から強く意見を言われたとき、それを否定せず受け止めることはできても、
その後に自分の考えを伝えたり、毅然とした態度を取ったりするのが難しいということがあります。
そのままのスタイルで関わりを続けると、生徒から「頼りない先生」「甘い先生」
と思われてしまい、指示が届かなくなってしまうこともあります。
その結果、生徒との信頼関係が築けなくなるという点では、
(3)のタイプと似た課題を抱えることになります。
(1)「わたしもあなたもOK」のタイプ
このタイプの教師は、自分のことも生徒のことも大切にできる姿勢を持っています。
上下を意識しすぎず、思いやりと率直さをもって関わろうとします。
そのため、自然と良好な人間関係が生まれやすく、生徒からの信頼が得やすいのです。
交流分析では、「人生態度」は気づきと努力によって変えられるとされています。
たとえば、自己評価が低い生徒に「あなたには価値があるよ」「頑張っているね」
といった前向きな言葉をかけ続けることで、
生徒は「自分もOKかもしれない」と感じられるようになります。
つまり、教師の関わり方ひとつで、生徒の「人生態度」にも変化が生まれるのです。
このように、人の成長を前提とするところが、交流分析の魅力でもあります。
(4)「わたしもあなたもNG」のタイプ
このタイプの教師は、自分にも生徒にも価値を見出せず、関わりを避けるようになってしまいます。
教育の現場では、生徒と関わることが中心になりますので、
そもそもこのタイプの人が教職を選ぶことは少ないと考えられます。
人生態度は、日々の指導や人間関係の「見えない前提」といえるものです。
自分がどんな立場に立っているかに気づき、
「わたしもOK、あなたもOK」という関わりを少しずつ増やしていくこと。
それは、生徒の成長を支えるだけでなく、教師自身の仕事や人生をより豊かにしてくれます。
また、「まず自分にも、相手にも価値がある」と思って関わることが、
人間関係を良くする第一歩になると教えてくれています。
引用文献
イアン・スチュアート, ヴァン・ジョインズ(2022).
TA TODAY:最新・交流分析入門 第2版 実務教育出版
【プロフィール】
会津大学文化研究センター 教授 兼 学生部長
2015年から現職。専門領域は「教育学」「教育カウンセリング心理学」
研究テーマは教育困難校での支援