「大学付属校からの進路選択」筆者・法政大学キャリアデザイン学部 教授 児美川孝一郎

勤務先の大学の付属高校に出かけて、高3生を対象に
「進路講演」という名の学部説明をする役割が回ってきた。
うちの大学には15の学部が存在するので、
総勢15名の大学教員が付属校に出かけて、50分の「講演」を2コマ実施する。
生徒は、希望する学部の話を2つ選んで聞くという恒例の進路行事である。

準備をしながら、はたと考えてしまった。いったい何を話せばよいのか、と。
付属生のうち9割以上は、本学に内部進学してくる。
だから、今さら大学の特色やら、魅力やらの話ではない。
では、学部で何が学べるかという話なのか。穏当な線だろう。
おそらく付属高の側が求めているのも、これに違いない。
しかし、ここでも、はたと思ってしまう。
通常、この手の学部説明をするときには、
学部で何が学べるかという話を大前提としつつ、
他大学の同系統の学部等との比較で、
自分の学部の特色やオリジナリティを伝えようとする。
しかし、付属校生を相手にする場合には、このやり方はできない。
他学部は、そもそも系統が違うのだから、比較のしようがない。
大人の事情だが、他学部のことに口出しをすることも「禁じ手」である(笑)
もちろん、この学部で学んだことが、社会に出てどう生かせるのかという方向に、
話を振ることは可能ではある。しかし、実際問題として、
少なくとも文系の場合の新卒採用では、学部で学んだ専門性が重視されるわけではない。
だから、筆者の勤務先の学部でも、学生の卒業後の進路の内訳は、
他の文系学部とそれほど変わるわけではない。

ふと思ったのは、学部説明をする大学教員の側が、これだけ考え込んでしまうのである。
ということは、裏を返せば、付属校の生徒にとっても、
卒業後の進路選択は、実はそう簡単なことではないのではないかという、
これまでは意識しなかった「盲点」である。

世間ではよく、付属校からの大学進学を「エスカレーター式」と言ったりする。
確かに、大学に入学できるかどうかという点では、
生徒たちはエスカレーターに乗っている。しかし、入学はできるとしても、
何を目的として、エスカレーターのどの「階」で降りるのかは、
自分で決めなくてはならない。しかも、付属校からの内部進学といえども、
学部ごとには「定員」が決まっていたりもする。
この「階」で降りたいと思っても、できない場合がある。
さらに言えば、通常の受験の場合には、降りてもよい「階」は、
多様に、無数に存在している。しかし、付属校推薦の場合には、
降りる「階」は、その大学に存在する学部の数しかない。

これは、冷静に考えたら、通常の大学受験よりも、
かなり難しい進路選択を迫られているということではないのか。
世間の注目は、大学入学の可否という点にしかないので、こうした点が見えていない。
しかも、これまでの教育研究も、
この点にはほとんどスポットを当てていなかったのではなかろうか。

【プロフィール】
教育学研究者。
1996年から法政大学に勤務。
2007年キャリアデザイン学部教授(現職)。
日本キャリアデザイン学会理事。
著書に、『高校教育の新しいかたち』(泉文堂)、
『キャリア教育のウソ』(ちくまプリマー新書)、
『夢があふれる社会に希望はあるか』(ベスト新書)等がある。