修学支援新制度の改正案が文部科学省から第217回国会に提出された。
https://www.mext.go.jp/b_menu/houan/an/detail/mext_03107.html
修学支援新制度は創設の経緯から、その目的自体にも制度自体にも問題が多い。
このことを筆者はコラムでも、さまざまな機会に指摘してきた。
特に、目的に関して、「大学等における修学の支援に関する法律」は、
「第1条 (前略)子どもを安心して生み、育てることができる環境の整備を図り、
もって我が国における急速な少子化の進展への対処に寄与することを目的とする」と、
少子化対策が目的となっている。
学生支援の最重要な目的である教育機会の均等は目的となっていない。
これは、「税と社会保障の一体改革」のため、
社会保障にしか使えない消費税値上げ分を財源としていることによる。
つまり、新制度は当初から、目的がねじれていたのである。
しかし、低所得層への学生支援が少子化の改善につながるというロジックは、
はなはだ疑わしいと言わざるを得ない。
低所得層に限らず、教育費の負担が重いことが、
少子化の一つの重要な要因となっていることは各種の調査研究などで確認できる。
ただ、新制度の教育費負担の軽減によって直ちに低所得層が子どもを持つ、
あるいは増やすかということは十分検討されておらず、今後の検証を待たなければならない。
改正案では、この目的規定について、
少子化から教育費負担の軽減により「子育てに希望が持てる社会の実現」へと大きく変わった。
教育の機会均等は目的とされていないが、
少子化の進展に対する対処という短期間では実現困難な目的に対して、
「子育てに希望が持てる社会」とその一つ手前に目的を置き、少子化は目的規定から除外された。
社会保障にしか使えないという制約の中で、苦心した目的規定の改正と見ることもできよう。
【プロフィール】
東京大学名誉教授、現・桜美林大学教授。
主な研究テーマは「高等教育論」「教育費負担」「学生支援」「学費」。
奨学金問題の第一人者として知られ、
『大学進学の機会』(東京大学出版会)、
『進学格差』(筑摩書房)など著書多数。