神奈川県のある市の公民館が主催する連続講座の1回として、
「夢、やりたいこととの付き合い方」と題した講義を担当した。
筆者の早とちりであったことは後でわかるのだが、講師を引き受ける際には、
当然のことのように、若い世代を対象とした講座であろうと盲信していた。
しかし、担当する職員の方と事前に打ち合わせをした際に判明したのは、
参加者の大半は、中高年の方々であり、
すでに仕事を退職されている方も少なくないという事実であった。
正直に言うと、かなり慌てた。
この期に及んで、連続講座の全体タイトルをよく見てみると、
「自分らしく楽に生きる! ──生きづらさ・ストレスのない生活を送るために」
とあった。
そして、筆者の担当ではない回のテーマには、
「幸福とは」「自己肯定感を高める」「無理のない人間関係」
「ルーティーンの重要性」「心が楽になる考え方」といった内容が並んでいた。
うーむ。これを見て筆者は、若い世代向けの講座なのだろうと勘違いしたわけだが、
確かに中高年を対象にできない内容ではない。
そういう意味では、こんな連続講座を企画した職員の方のセンスに感心してしまう。
とはいえ、自分が担当する「夢(やりたいこと)」の回の内容をどうするのか。
こちらは、難問である。
講義を準備するにあたっては、ずいぶんと悩み、アイデアが右往左往した。
一つの逃げ道としては、参加者の方々には
ご自身のお孫さん、お子さん、職場の若い方などを想定してもらい、
筆者のほうでは、今どきの若者が「夢、やりたいこと」とどのように向きあい、
学校のキャリア教育などでは「夢、やりたいこと」がどう扱われているのかを
レクチャーするという手がある。
実際、2時間の枠の講義のうち、半分くらいの時間は、これに当てた。
そして、「今の若者は、なぜこんな発想をするのか」
といった問いを提出して、ペアワークで考えてもらったり、
現在の若者たちが生きてきた生育環境、時代や社会背景の変化に注意を向けてもらったりした。
ただし、これだけで終わってしまうのは、筆者としては癪に障る。
残りの時間は、参加者自身が、「夢、やりたいこと」とどう向きあうか
というテーマに正面から挑むことにした。そのために、
エリクソンの発達段階論における老年期の課題=「統合性」の話を持ち出したり、
「人生100年時代」という環境変化に言及したり、
そもそも「夢を実現するとは、どういうことなのか?」について、
参加者どうしで考えてもらったりした。
最終的には、「夢、やりたいこと」は、若い時のある時点で選択して、
その後に実現したり、しなかったりして終わるものではなく、むしろ、生涯を通じて
「育てていく」(修正したり、膨らませたり、意味づけを変えたりしていく)ものである
という点を落とし所とした。
冷や汗ものではあったが、真剣勝負のいい経験ができたようにも感じている。
【プロフィール】
教育学研究者。
1996年から法政大学に勤務。
2007年キャリアデザイン学部教授(現職)。
日本キャリアデザイン学会理事。
著書に、『高校教育の新しいかたち』(泉文堂)、
『キャリア教育のウソ』(ちくまプリマー新書)、
『夢があふれる社会に希望はあるか』(ベスト新書)等がある。
