2月に文部科学省の中央教育審議会の答申が出された。
私自身は、政策の議論の場を離れて外から答申を見ているだけだが、
前回のグランドデザイン答申を具体化したというだけで、あまり政策には新味はないように思う。
グランドデザイン答申は、「学修者本位の大学」への転換を唱導したが、
答申案は、それを継承している。答申のキーワードは「質」「アクセス」「規模」だ。
しかし、マスコミなどで注目されているのは、「規模」の予測だ。
2040年の18歳人口が当初の予測より速く減少し、大学進学者は40万人台になるため、
現在の大学定員では、充足率は7割台まで低下することになる。
このため、国立大学を含め、定員規模の適正化を打ち出した。
そのためには、設置審査の厳格化と既存の高等教育機関の再編統合を促すということだ。
また、私立大学の安易な公立化にも釘を刺している。
しかし、そもそもこの予測の前提は、大学進学率を約60%と仮定して推計している。
かつて高校進学率の予測でも同じように70%と推計して予測が立てられたことがあったが、
現実は90%以上となっている。
もちろん、高校と大学は異なるから、大学進学率が90%になると主張したいのではない。
ただ、予測は往々にして外れるし、あまり細かな数字に拘る必要はないと思う。
いずれにせよ、上記のような政策をどの程度実施するか、その方法と実効性が問われる。
答申では、地域のアクセス確保策や人材育成等を議論する協議体として、
「地域構想推進プラットフォーム(仮称)」を構築し、
地方公共団体に高等教育振興担当部署の整備促進し、
国における司令塔機能の強化等を図るとしている。
文部科学省は「地域大学振興室」の設置も公表している。
この政策の今後の具体的な遂行に注目する必要がある。
【プロフィール】
東京大学名誉教授、現・桜美林大学教授。
主な研究テーマは「高等教育論」「教育費負担」「学生支援」「学費」。
奨学金問題の第一人者として知られ、
『大学進学の機会』(東京大学出版会)、
『進学格差』(筑摩書房)など著書多数。