(※編注:本コラムは4月下旬に執筆いただきました)
4月2日、米国の大統領が、笑みを浮かべながらボードを掲げ、
各国に対する相互関税を発表した。
大統領選から、自国の膨大に膨れ上がった貿易赤字を解消するために、
「タリフマン」と自称し、関税を“ディール”の手段とすることを公言していた。
世界第2位の経済大国である中国を標的にした常識的に考えられない関税率の設定と、
それに対する報復関税の応酬は、両国の貿易戦争の激化を世界に印象付けている。
また、鉄鋼・アルミ、自動車に25%の追加関税、一律関税として10%、
さらに各国の貿易状況により相互関税が追加される。
日本をはじめ欧州の友好国、対貿易黒字国、発展途上の国々にまで
高関税を領域なく課すことに、世界中が大混乱に陥っている。
世界一の経済大国であり、グローバリゼーションの推進、自由貿易体制の旗振り役、
自由と平等の国であったはずなのだが、どこまで壁を厚く高くして引きこもってしまうのか。
相互関税の発動当日、当の国の大統領が突如として適用を90日間停止し、
希望する国と交渉の用意があるとの通達。
その後も、種々の発言を二転三転と変え、世界中を翻弄している。
国際通貨基金は、今年の世界の実質経済成長率を、1月の見通しから
米国政府の高関税政策の影響により0.5ポイント引き下げ、2.8%と予測した。
ほぼ全ての地域の成長率が引き下げられ、
このままでは「世界景気悪化」は現実となる可能性が高い。
米国政府はこの事態を収拾すべく、
軟化するとの報道もあるが不確実性は拭えないと思われる。
私は、おもに商業高校の教員として学校現場に在籍した期間に、
近年の大きな景気後退局面に遭遇している。
その時々において3学年担任、もしくは進路指導部に属していた。
以下は、商業高校の教員として経験したことである。
まず、日本中が好景気に沸いた後に、
失われた30年の始まりといわれる1990年代初頭のバブル経済崩壊。
この時は、商業高校生にとっての魅力の一つである事務職が激減し、
都市銀行(当時13行)からの求人は無くなった。
次に、当初は対岸の火事であると思われていたが世界的な金融・経済危機となり、
日本にも多大な悪影響となった2008年のリーマンショック。
事務職はさらに減少し、地方銀行や地元の信用金庫、信用組合などの金融機関からの求人は、
ほとんど無くなった。また、内定先の都合から内定取り消しや求人の取り下げが相次いだ。
この頃から就職希望者は減少し、
自分の希望する職業選択ができる可能性のある進学に向かう生徒が増加した。
リーマンショックの影響が多少癒え、経済動向が上向きつつあったが、
2011年の東日本大震災の発生により、求人数はまともや激減。以後、4年間低迷が続く。
東京オリンピックの招致が決定し、求人数が増加傾向となり就職希望者も比例的に増加する。
2019年の新型コロナウイルスによるパンデミックは、
求人数は予想していたよりも減少しなかったが、
生徒数の減少と就職希望者の減少により、以後求人倍率が年々過去最高となる。
そのときの社会情勢や経済状況により、
運・不運に分かれるのはあまりにも理不尽であると痛切に感じていた。
“一難去ってまた一難”。
この度の米国の要求は、大きな景気後退になると予想されることから予断を許されない。
各企業の方々は、経営方針の変更や新採用計画に頭を悩ませていることだろう。
90日の交渉期限は7月初旬。この“一難は早く去れ”とただ祈るばかりである。
【プロフィール】
1983年4月より群馬県公立高校教員として勤務
学科主任、学年主任、保健主事、進路指導主事等歴任
2019年、平成30年度 専門高校就職指導研究協議会全国発表
2022年3月、群馬県公立高校教員完全定年(再雇用含む)
2022年4月よりライセンスアカデミー東日本教育事業部顧問として、
おもに就職関係の進路講演、面接指導等を各学校で行う