5月下旬ごろ、研究室にいるときは、わずかな時間を見つけては、
教職課程を履修する学生が提出してきた「教職履修カルテ」に
コメントを書くという作業に没頭していた。
3年次に進級した学生全員の履修カルテを点検して、
コメントを返すという時期なのだが、
これを、数人の教職担当の専任教員で行っている。
一人当たりの負担は、それなりに重い。
ご存じない方も多いと思うので、簡単に説明しておく。
教職履修カルテは、教育職員免許法施行規則の改正によって、
2010年より、4年次後期に、教職課程での学びの総まとめをする科目として
「教職実践演習」が設けられたことに伴い、文部科学省が作成を義務づけたものである。
学生は、教職課程の履修を始めた時から、教職履修カルテを持ち、
教職課程の履修状況(講義科目だけではなく、介護等体験、教育実習等を含む)
を記録し、自らの気づきや目標などを記入する。
途中プロセスでは、教員による点検を受け、コメントも貰うので、
それを参考にしながら、自己の履修行動や学びを振りかえる。
教員の側は、学年進行で設定されたチェックポイントで、
学生の履修状況や学びを点検することができ、
最終的に4年次後期の「教職実践演習」では、
教職履修カルテを活用した指導を行うことが期待されている。
言ってしまえば、教職課程を学んだ学生のラーニング・ポートフォリオである。
学生が書いた教職履修カルテを読んでいると、
フォーマットが決まっているにもかかわらず、自ずと個性が滲み出てくる。
個別の科目で何を学び、どんな気づきを得たのか、
現在までの履修状況をどう振りかえり、今後に向けてどんな見通しを持っているのか。
朧気ではあるけれども、その学生の姿が想像されてくる。
文科省の施策ゆえに、「カルテ」などという、
診断や点検のニュアンスが強い名称になっているが、
実質は、学生自身による学びの「ポートフォリオ」である。
読んでいると、それなりの教育効果を実感する。
そうであれば、教職課程だけではなく、学部の専門教育においても、
こうした履修指導の工夫が求められたりしないのだろうか。
科目名称と成績だけが並ぶ成績表を見ても、学生が自らの学びを振りかえるのは難しい。
とはいえ、教職履修カルテを営むだけでも、教員の負担は重いと先に書いた。
それを、学部の教育全体に広げるのは難儀である。
大学・学部によってST比(学生数と教員数の比率)はかなり違うので、
一概には言えないとしても、悩ましいところである。
【プロフィール】
教育学研究者。
1996年から法政大学に勤務。
2007年キャリアデザイン学部教授(現職)。
日本キャリアデザイン学会理事。
著書に、『高校教育の新しいかたち』(泉文堂)、
『キャリア教育のウソ』(ちくまプリマー新書)、
『夢があふれる社会に希望はあるか』(ベスト新書)等がある。