コンパクト・シティ論の提唱は、ローマ・クラブの『成長の限界』(1972年)公刊と
軌を一にしている。その経緯からすると、コンパクト・シティ論は
縮小社会論と表裏一体の思潮に立つと考えることができる。
では、コンパクト・シティ論は都市社会の設計をどのように描き、
「地域拠点性」を生かした学校の配置をどのように考えているのだろうか。
今回は我が国で成功例として取り上げられることの多い富山市を事例にしながら、
地域社会の設計の描かれ方とそこでの学校配置のあり方について考えてみよう。
東洋大学の根本祐二教授は、「コンパクト・シティの拠点設定について
~学校統廃合シミュレーションに基づく試算と地域経営への示唆」(2018年6月19日)
と題する論稿で、富山市のコンパクト・シティ構想に言及している。
根本氏は「人口減少時代の地域経営のポイントはコンパクト化にある」、
という立論にたち、公共施設のコンパクト化の一例を次の図式で示している。
A地区、B地区間の距離が10kmの空間に、公共施設が2セット
(A地区1セット、B地区1セット)配置されていると想定した場合の、
コンパクト化の設計である。A、B地区の公共施設を1セットに統合再編し、
かつ、A、B地区間は1kmとなるように設計する。
この地域経営の効果としては、財政面では7割減への圧縮、
居住環境では(住居間の距離がコンパクトになることによる)利便性の向上、が生ずる。
コンパクト化は「学校を拠点」とするべき、というのが根本氏の立場であり、
次の3点を理由としている。
(1)(学校は)現在でも地域拠点として認識され、違和感がない。
(2)(学校は)公共施設の中でもっとも大規模であり、拠点としての十分な規模を有している。
(3)(学校の)数や規模について法令による目安が明確に示されている。
1.学級当たり児童生徒数 →40人(小学校1年にあっては35人)
2.学校当たり学級数 →12学級以上18学級以下
3.学級当たり面積 →学級数、特別支援学級・多目的教室等の有無により指定
4.通学距離 →小学校:おおむね4km以内、中学校:おおむね6km以内
ここでコンパクト化の財政効率を算出するため、
(3)に基づいてシミュレーションを進めると、全国で維持される適正規模校数Nは、
N=現在児童生徒数(全国計)×0.7(1-年少人口減少率30%)
÷適正児童生徒数規模(18学級ケース)、で求められる。
・小学校数67.1%減、中学校数68.2%減
・ゼロ自治体(学校消滅自治体) 小学校 851自治体、中学校 1011自治体
という学校数の圧縮がコンパクト化の効果、ということになる。
以上のシミュレーションに基づくと、コンパクト化は財政効率性を高める一方、
学校配置密度の低下を招き、学校の「地域拠点性」の問題などを
未解決なままとすることが分かる。通学距離・時間の限界値の問題やまちづくり、
子どもの暮らしの圏域の設計(ペリーの近隣住区論など)と
学校配置との関係の問題などである。
住民の居住地の再編が、設計者が想定するコンパクト・シティ構想に
したがって進むとは限らない。地域によっては居住者流出に拍車がかかり、
過疎化に苦しむ地域が広がる恐れなしとはしない。
小中学校は義務教育機関でありすべての子どもの就学が保障されなければならない。
では、コンパクト・シティ構想にのらない地域空間に
(たとえ少数だとしても)住民が居住し、子どもが暮す事態にどう対応すればよいか。
仮に、国土交通省などが提唱するコンパクト・シティ論に
「+ネットワーク」を付加したとしても、その圏域の大きさによっては、
学校への通学距離・時間の適正範囲の維持をどう進めるかという懸案が残る。
根本氏の論稿は小規模校への対応方策を「12学級から18学級」校への集約として考えており、
学校教育法施行規則の標準規模をベースとしている。
しかし、人口減少社会下での学校未設置区域の拡大や
(学校が設置されない村などの)「無学校村」の出現を避けるためには、
「学校規模」概念の再検討が問われる。
次回ではこの点に関連した考察を進めよう。
【プロフィール】
教育政策論、教育社会学専攻。
東京学芸大、国立教育政策研究所、文教大学等を経由し、
現在は東京学芸大名誉教授、 国立教育政策研究所名誉所員。
この間、各地の教育委員会の学校づくり等に携わるほか、
教職員対象の各種研修会講師も務める。
詳細は、次のプロフィール参照。
https://bunkyo.repo.nii.ac.jp/records/7687

