前回(2025年8月21日掲載)はアメリカ合衆国建国以前に、
大学が存在していたことが、政府と大学の特殊な関係を理解する鍵だと説明した。
そもそも合衆国憲法には、教育に関する規定はなく、
憲法修正第10条により地方政府が権限を持っている。
このことは、アファーマティブ・アクション(積極的差別是正措置)などが、
1990年代以降、州憲法で逆差別として禁止されるなど、
非常に重要な問題の背景となっている。
連邦教育省自体、1867年に設立された小規模の官庁で、
教育だけを所管する独立した省ではなかった。数度の省庁再編を経て、
現在の独立した教育省になるのは、1979年の民主党カーター政権で
教育省と保健福祉省に分離した以後のことである。
それに先立ち、民主党ジョンソン政権の1964年の公民権法以降、
1965年の初等中等教育法や高等教育法によって、
連邦政府の教育への関与は大幅に拡大した。連邦政府のミッションは、
すべての個人に対する教育機会の均等の保証、
そのための生徒や学生への支援と研究支援が主要なものとなった。
しかし、憲法に規定がないことから、連邦政府の教育への関与に対しては、
賛否両論があり、たびたび連邦教育省の廃止が俎上に載った。
例えば、1980年の共和党のレーガン政権は創設したばかりの
教育省の廃止に積極的だったが、実現しなかった。
さらに、連邦教育省の廃止は共和党の第1次トランプ政権でも
提案されていたが実現しなかった。
このように、3月20日の第2次トランプ政権による教育省廃止の大統領令まで、
教育省の問題は民主党と共和党の政権交代に関わる長い歴史的経緯がある。
これが今後実際廃止に繋がるのか、また、教育省の最重要のミッションである
学生への経済的支援にどのような影響があるのか、今後注視していく必要がある。
【プロフィール】
東京大学名誉教授、現・桜美林大学教授。
主な研究テーマは「高等教育論」「教育費負担」「学生支援」「学費」。
奨学金問題の第一人者として知られ、
『大学進学の機会』(東京大学出版会)、
『進学格差』(筑摩書房)など著書多数。