「アメリカの大学と政府(1)」筆者・桜美林大学総合研究機構 教授 小林雅之

今年、第2次トランプ政権によって大学への攻撃が喧しい。
大学と政府の関係は、国と時代によってさまざまである。
日本やドイツのように国家が作った国民国家大学でも
両者の関係はいつも順風満帆ではない。
そもそも中世大学は当時の政府よりも古くから創設されていた。
そこでは、タウンとガウンと言われるように、大学と政府(都市国家など)の関係は、
時には鋭く対立してきた。対立の結果、大学ごと町を出て、移転してしまった例もある。

それにしてもトランプ政権の大学への攻撃はこれまでになかったように思われる。
しかし、これはトランプ大統領の個性による点も大きいが、
アメリカの場合にも大学と政府は緊張関係を続けてきた。
両者の関係は複雑で簡単には理解できない文化的社会的背景もある。
そこで今回からアメリカの政府と大学の関係を見ていきたい。

アメリカでは、高等教育は州政府の所管であり、連邦教育省は、
学生支援(給付型奨学金や学資ローンなど)と研究補助金のみ所管している。
この背景には、アメリカの歴史的な経緯が関連している。

アメリカの最古の大学は 1636年創設のハーヴァード大学だ。
しかし、今のハーヴァード・ユニヴァーシティではなく、
当初は ハーヴァード・カレッジといい、
アメリカ合衆国建国前の植民地マサチューセッツ州ケンブリッジに
創設された私立大学である。
創設の際には、マサチューセッツ議会の積極的な支援があった。
それなしには創設はおぼつかなかったと言われている。
多くの植民地カレッジについても、程度の差はあれ、州政府との関連をもっていた。

このようにアメリカの最古の大学は、アメリカ合衆国建国以前に創設され、
植民地の州政府の認可により創設されたが、まだ連邦政府は存在していない。
この歴史的な経緯が、大学と政府の独自の関係が生まれた一つの原因となった。

【プロフィール】
東京大学名誉教授、現・桜美林大学教授。
主な研究テーマは「高等教育論」「教育費負担」「学生支援」「学費」。
奨学金問題の第一人者として知られ、
『大学進学の機会』(東京大学出版会)、
『進学格差』(筑摩書房)など著書多数。