ローマ・クラブが「成長の限界」と題する報告書を公にしてからはや半世紀。
同クラブは、1970年3月にスイスの法人として設立された民間組織で、
世界各国の科学者、経済学者、プランナー、教育者、経営者などから構成され、
政府の公職にある人々はメンバーに含まず、
特定のイデオロギーや国家の見解によって左右されないことを旨としていた。
当時深刻な問題になっていた天然資源の枯渇、公害による環境汚染、
発展途上国における爆発的な人口の増加、軍事技術の進歩による大規模な破壊力の脅威などを
人類の危機としてとらえ、可能な回避の道を模索することをねらいに組織された。
では、約半世紀を経た現在、ローマ・クラブの問題提起は実を結んでいる、と言えるだろうか。
飢餓の拡大や地球温暖化、貧困格差の拡大、
ウクライナ戦争、西アジアの戦乱や各地の内乱、コロナ禍などを見ると、
約半世紀前の「危機」は今日も依然として「危機」のままのように見える。
我が国を振り返ると、相次ぐ大災害、原発事故、地球温暖化、社会格差の拡大などは
ローマ・クラブの指摘する「危機」の持続を思わせるが、
半面人口動態については「人口爆発」と裏腹に、
出生数の落ち込み、人口減の長期化などが社会問題化している。
では、世界総人口の膨張に対し、
我が国の人口減の長期化についてはどう評価すべきなのだろうか。
日本政府が打ち出す人口減への手当としては、
合計特殊出生率の回復(1.8の回復)を柱としているが、
近年の出生率の停滞を見る限り政策効果は不明のままである。
そうしたなかで、我が国の「人口縮小社会」への胎動は受け入れるべきもので、
そのもとでの社会像こそが問われるべきこととする議論も広がっている。
京都大学有志による「縮小社会研究会」(2008年発足)もそのひとつで、代表の松久寛氏は、
大都市の地方分散や社会的格差・排除の是正・緩和策に向けた社会システムの再構築、
地球温暖化に立ち向かうための化石燃料の使用量削減などこそ問われるべきとしている。
同氏の議論は、地球の温暖化メカニズムなどの科学的分析に基づくもので、
再生可能エネルギーや原子力の活用なども決定打とならないとし、
地球持続の選択肢としては「縮小社会」への道筋しかないとする。
地球に生存する人口は2024年には81億人を超え、
22世紀には100億人に達するという国連の予測も提出される。
水の枯渇や地球温暖化など、人類の生存を脅かす事態が進行しており、
地球持続のための人口規模約80億人という議論からすると、
すでに危機的な時期が到来している。
我が国がスムーズに「縮小社会」への道筋を辿るには、
我々の生き方や暮らし方の転換が鍵になる。
人口爆発が続く南半球の人々の意識転換を含め、
人々の意識啓発に係る教育、医療等の果たすべき役割は大きい。
次回には我が国の人口動態に関連し、
「適正人口」という概念について考えてみることにしよう。
【プロフィール】
教育政策論、教育社会学専攻。東京教育大・筑波大で勤務を始めて以降、
東京学芸大、国立教育政策研究所等を経由し、
現在は東京学芸大名誉教授、 国立教育政策研究所名誉所員。
日本教育行政学会、日本教育社会学会、日本情報教育学会のほか、
千葉教育創造研究会や縮小社会研究会(京大工学部中心)、
災害文化研究会(岩手大工学部中心)、に参加しています。
