「『就活』と『卒業』」筆者・青木勝美

数年前の6月末のこと、東京新宿駅西口広場で若い女性から、
「トチョウドコデスカ」と突然尋ねられた。
私は、その日の午前中に大学2校を訪問し、
その後、ある大学の入試説明会に出席するために、
東京都庁の向かいにあるホテルに向かっていた。
とっさに言葉が出てこない。
後ろを振り向くと、若い男女5人が不安そうに2人の様子を見ている。
彼女もそのグループの一員であり、日本語ができるためリーダーなのだろうか。
数分ほどの道のりであるが同行することになった。

道すがら、リーダーの彼女が、米国から来たこと、大学を先日卒業したこと、
都庁で友人に合うことになっていることなど、日本語まじりの英語で話をしてくれた。
都庁は昼休みの時刻のためか、新宿駅並みに人の出入りが激しく、
彼女らも戸惑っていたが、展望室エレベーターの係りの方にお願いして、
米国人グループと別れた。
私は入試説明会の会場へと向かったのだが、
彼女たちの訪日の目的は? 単なる卒業旅行なのか? 
就職先は決まっているのか? 日本での就職を希望しているのか? 等々を、
語学が堪能ならば後学のため、いろいろ話が聞けたのにと後悔した。

そもそも米国では、在学中は勉学に集中し、
卒業後に就職先を探すことが定着しているため、
在学中に就職活動をするという考え方が存在しない。
即戦力を重視する米国では、“実務経験”の有無が採用に大きく影響するため、
職歴としてカウントされる長期的なインターンシップにほぼ100%近い学生が参加する。
義務教育(高校まで)終了後、約8割が進学する高学歴社会であることから、
採用基準が厳しくなっている。
卒業後1~2年かけて、アルバイトや有償のインターンシップをしながら、
高度な資格取得や経験値の積み重ねをし、
大企業への就職チャンスを窺っているようである。
また、採用する企業側も“新卒採用”の概念がなく、
通年採用(人により卒業時期が異なることも一因)であり、
欠員が出た場合や人材が欲しいときに募集をかけて、
即戦力となる人材を採用することが一般的である。

近年、日本の企業も多様化への対応やグローバル人材の必要性が高まっていることから、
優秀な人材の確保を目的とし、自由に採用活動を行う通年採用の企業が増えている。
日本の就職活動の進め方は、他国から見ると特有で、
かなり異様な光景に見えるそうである。
在学中に就職先を決め、実務経験がなくても職場で人材を育てる企業風土のある国は、
日本を含めても少ないと思われる。
各国により、教育制度、気候風土、文化、歴史的な違いがあり、
就職するための手段は様々である。どの国の方法が最適なのか優越はつけられない。
わが国の場合、人口の減少とともに、若年層の働き手が減少することは確実である。
奨学金の拡充と高校無償化により、
高校から上級学校への進学割合はますます高くなると予想できる。
しかし、高卒就職希望者は零(ゼロ)にはならないと思うが、
社会的経験や実務経験がほとんどない。
そこで、在学中に数社から内定をもらい、就職活動の一環として、
卒業後数か月有償の長期インターンシップにより、個々の適性と会社の方針を見極め、
1社に正式採用されるシステムがあってもいいのかもしれない。

【プロフィール】
1983年4月より群馬県公立高校教員として勤務
学科主任、学年主任、保健主事、進路指導主事等歴任
2019年、平成30年度 専門高校就職指導研究協議会全国発表
2022年3月、群馬県公立高校教員完全定年(再雇用含む)
2022年4月よりライセンスアカデミー東日本教育事業部顧問として、
おもに就職関係の進路講演、面接指導等を各学校で行う