※編注:本コラムは12月下旬に執筆いただきました。
2025年は、日本経済を揺るがす関税問題や
国民を苦しめる諸物価の高騰が収まらない世相であった。
しかし、新卒の就職状況は好調であり、
初任給や賃金の上昇は来年度も継続されそうである。
さて、年末恒例の流行語大賞は、昭和中期から末期のモーレツ社員を思い起こさせる
“あの”言葉であった。“あの”言葉の前に
「ワーク・ライフ・バランスを捨てる」と日本のリーダーになる方が言い放っていた。
自身に向けた言葉ではあるものの、「働き方改革」の整合性から物議を醸している。
そもそも「ワーク・ライフ・バランス」(以下WLB)の根本的な概念は諸説あるが、
英国の産業革命期(19世紀前半)に遡るとされている。
当時、過酷な労働を強いられいた工場労働者、特に女性や子どもの保護を目的に、
労働時間を制限する制度が設けられた。今日のWLBの理念は、
1980年代後半に米国の「ワークファミリーバランス」が始まりとされている。
当初、働く女性の保育支援が中心であったが、
すべての労働者にとって必要な考え方だとして、世界に普及していった。
英国において2000年に「ライフ・ワーク・バランスキャンペーン」が始まり、
WLBを支援するさまざまな法制度が整備された。
わが国においても、1985年の「男女雇用機会均等法」の施行により、
仕事と家庭の両立や働き方改革に政府も力を入れるようになった。
2007年に内閣府が策定した
「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」では目指すべき社会として、
「就労による経済的自立が可能な社会」、
「健康で豊かな生活のための時間が確保できる社会」、
「多様な働き方・生き方が選択できる社会」をあげている。
つまり、若者がいきいきと経済的に自立可能な働き方ができるとともに、
暮らしの経済的基盤が確保され、働く人々の健康が保持され、
充実した時間と豊かな生活ができる環境と、性別や年齢などにかかわらず、
誰もが自らの意欲と能力を持ってさまざまな働き方や生き方に
挑戦できる機会が提供される社会を目指すということであろうか。
このような社会の実現のために、罰則付きの労働時間規制は必要であるが、
現在、人手不足に悩む経済界からの要望で
労働時間の規制緩和が政府内で検討されている。
業種や職種により、働き方はさまざまであり、
「ワーク」と「ライフ」の一律的な調和は難解なテーマである。
私は、進路講演会で「ワーク」と「ライフ」について、
仕事を優先させるべきか生活を充実させるべきか、
両方をうまく「バランス」をとることは“自己責任”であると説明している。
これから、社会人となる生徒に対して酷な言葉である。実際、彼らは
「ワーク」と「ライフ」の「バランス」は至難なことは、実体験で知ることになるのだが。
最近では、「ワーク・ライフ・インテグレーション」が唱えられている。
「ワーク」と「ライフ」の対立ではなく、
相互に良い影響を与え合う要素として統合(インテグレーション)するという考え方である。
WLBは「どちらを優先するか」「一時的に調整する」という意味合いが強かったが、
インテグレーションは人生の経験すべてを仕事に活かし、
仕事上の経験も生活を豊かにするものとして捉えている。
いずれにせよ、勤勉で長時間労働に慣れた日本国民のWLBの実現は、
もう少し先になると思われる。
【プロフィール】
1983年4月より群馬県公立高校教員として勤務
学科主任、学年主任、保健主事、進路指導主事等歴任
2019年、平成30年度 専門高校就職指導研究協議会全国発表
2022年3月、群馬県公立高校教員完全定年(再雇用含む)
2022年4月よりライセンスアカデミー東日本教育事業部顧問として、
おもに就職関係の進路講演、面接指導等を各学校で行う
