「真実はいつもひとつ」
これは、人気アニメの決め台詞として有名な言葉ですが、これに対して、
「真実は人の数だけあるんですよ。でも事実は一つです」
と応える『ミステリと言う勿れ』(田村由美)という作品があります。
これって凄いですよね。というのも、
これは「人のコミュニケーションのあり方」の本質を突いている言葉だからです。
よく、「話せば分かる」なんてことが言われます。
しかし、どんなに丁寧に話をしても、どれほど詳しく説明しても、
その思いが正確に伝わらないことかあります。そんなときに話し手は、
「こんなに分かりやすく話しているのに、なぜ分かってくれないのか」と思うことでしょう。
しかし、この考え方は、根本的に間違っています。
というのも、人はみな自分の考えをもっているので、
その「自分の考え」というフィルターを通して相手の話を聞いているからです。
これは、意識的にか無意識のうちにか、人は、
「自分の考えと異なっていることはスルーして、自分の考えと一致しているものだけを聴いている」
からです。つまり、話した内容は「常に聞き手によって解釈」され、
解釈理解したことのみが聞き手にとって「意味あること」として伝わってしまうからです。
だから話し手が、どれほど丁寧に話したところで、
「その思いが100%伝わる、なんてことはない」のです。
そして、それが冒頭の「真実は人の数だけある、でも事実は一つ」につながります。
というのも、一つの事実に対して、それを見る人によって、その人の立場によって、
その見え方が違っているからです。それぞれの見え方が「一人ひとりの真実」なのです。
でも、その一人ひとりの真実は「その見え方によって全て異なっている」のです。
つまり、一人ひとりの知識や思考のあり方はみな違っているので、
話し手の伝えたいことと聞き手の聴きたい内容が一致しないのです。
ですから、どれだけ詳しく丁寧に話をしたところで、伝えたい内容の全てが伝わることはないのです。
たとえ相手が「分かった」と言ったとしても、それは相手の物差しで判断した「分かった」であって、
「話し手の物差しで語った内容」が全て通じているわけではないのです。
では、どうすれば話が通じるのでしょうか。
それは、それぞれが持っている「物差し」を同じものにする、
もしくは、相手の持っている物差しがどういうものなのかを理解した上で、
「相手の物差しに合わせて話をする」ことです。
インターナショナリゼーションが大切だと言われている昨今。
だからこそ、「そんな力をつける教育」がとても重要なのです。
「真実は人の数だけある、でも事実は一つ」、
この言葉の中にある「事実」を、「幸せ」や「平和」に置き換えてみてください。
このことを理解すること、理解させる教育が相手を慮る心につながり、
ひいてはそれが「世界平和につながる」と私は考えます。
【プロフィール】
1989年より大阪北予備校に勤務、
2007年より大阪国際学園に勤務。
橋本喬木・天野大空のペンネームにてショートショートを執筆。
光文社文庫『ショートショートの宝箱』シリーズ等に作品を提供。