エリック・バーンの交流分析から、人生の立場、ストローク、ディスカウントなどの
教師に役立つ考えやスキルを紹介しています。
それらを通して、交流分析が人と人との関わりを
分かりやすく捉える理論であることを御理解いただけたと思います。
今回は、その考えやスキルのもととなる心の状態、すなわち「自我状態」についてです。
自我状態とは、私たちの考え方(思考)・感じ方(感情)・
行動の基になっている心の状態を指します。
交流分析では、自我状態を「親の自我状態(Parent)」・
「成人の自我状態(Adult)」・「子どもの自我状態(Child)」の3つに分けて捉えます
(ここでは、自我状態をそれぞれP(親)、A(成人)、C(子ども)と表します)。
P(親)の自我状態は、過去に養育者などの身近な人たちとのふれあいから、
非言語的・言語的に取り入れた考え方、感じ方、行動パターンのまとまりです。
例えば、授業中に私語が多いクラスに対して
「何度言ったら分かるんだ!」と強く叱ったり、
「集中しにくいよね。あと10分だけ頑張ろう」と声をかけたりするのは、
P(親)に取り入れた行動パターンが無意識に表出していると考えます。
A(成人)の自我状態は、事実を冷静に捉え、今ここで最適な判断をします。
感情や思い込みに流されず、状況を分析して対応します。
例えば、提出物を出していない生徒に対して、
「出ていない理由を教えて」「期限をどう調整できるか一緒に考えよう」
と話すのはAの典型です。教師がA(成人)の自我状態で関わると、
生徒も落ち着いて現実的な反応を返しやすくなります。
C(子ども)の自我状態は、感情や欲求、創造性の源です。
例えば、授業を理解できたときに「やったー、わかったー!」と感じたり、
逆に授業を理解できないときに
「(自信ないようなそぶりで)たぶんわかったと思います」と言ったりするのは、
子ども時代にC(子ども)に取り入れた感情反応が表れていると考えます。
生徒と教師とに、それぞれPACの自我状態があります。
例えば、遅刻を繰り返す生徒に対し、教師が
「また遅刻か。ダメじゃないか、いい加減にしなさい」と厳しいP(親)で叱ると、
生徒は従順なC(子ども)で「すみません。気をつけます」と言った後に黙り込んだり、
あるいは、反抗的なC(子ども)で「遅刻しているのは私だけじゃない」
と反発して口論になったりすることがあります。
これらのやりとりが続くと、問題は解決しにくくなります。
そこで教師がA(成人)の自我状態で「最近遅刻が続いているね。何か事情はある?」
と事実確認から入ると、生徒は自分の状況を話しやすくなり、
具体的な改善策を一緒に考えることが可能になります。つまり、まずは、
教師がA(成人)を用いた会話で、生徒のA(成人)を機能させることで、
解決モードの会話に導くのです。
自我状態の視点が役立つのは、生徒理解や生徒との対応場面だけではありません。
教師自身が疲れているとき、無意識に厳しいP(親)が強くなっていないか、
あるいは従順なC(子ども)で我慢しすぎていないかを振り返る手がかりにもなります。
「今の自分はどの自我状態だろう」と立ち止まることで、
A(成人)に戻り、より建設的な関わりを選び直すことができます
(なお、P・A・Cはいずれも必要な心の働きであり、
優劣や善悪を示すものではありません)。
日々の教育実践の中で、自分や生徒がどの自我状態で関わっているかに気づくことは、
関係を整える大きな手がかりになります。
本年も、立ち止まってA(成人)に戻り、
教育の営みを前向きに見つめていきたいと決意しています。
引用文献
イアン・スチュアート, ヴァン・ジョインズ(2022).
TA TODAY:最新・交流分析入門 第2版 実務教育出版
NPO法人日本交流分析協会(2019).交流分析士2級テキスト 非売品
【プロフィール】
会津大学文化研究センター 教授 兼 学生部長
2015年から現職。専門領域は「教育学」「教育カウンセリング心理学」
研究テーマは教育困難校における支援
