「人口推計と適正人口(その1)」筆者・葉養正明

我が国の総人口のピークは2008年であるが、
増減の波がなくなり持続的な減少が発生したのは2011年からで、
この年が人口減少社会の始まりの年とされる。総務省統計局の見解である。
ピーク時の人口は約1億2808人で、2025年1月の人口は約1億2433万人であるから、
今日までの17年間に375万人が減少したことになる。では、今後我が国人口は
どのような道筋を辿るのだろうか(あるいは辿るべきなのだろうか)。

前回触れたローマ・クラブが「成長の限界」と題する報告書を公にしてからはや半世紀。
ローマ・クラブは「限りある世界」を論証するにあたり、
「世界の経済と人口の成長を維持していく」ための
「必要な要件」としてふたつを提示している。
第一の要件は、「生理的活動や産業活動をささえる物質的必要物―食糧、
原材料、化石燃料、核燃料、そして、廃棄物を吸収したり、
重要な基礎化学物質を再循環させる地球の生態学的システム―」であり、
第二の要件は、「平和とか、社会的安定、教育、雇用、着実な技術進歩といった要素」を含む。
ローマ・クラブの論証は膨大なデータを駆使した緻密なものであるが、
「世界の経済と人口の成長」は「必要な要件」の間の
トレードオフ関係(両立できない関係性)を基礎にし、地球環境の持続という視点からは、
「均衡状態の世界」の追求こそが目指されるべき、としている。
ローマ・クラブの報告書第5章「均衡状態の世界」冒頭には、
アリストテレス(紀元前322年)の箴言(しんげん)が掲載され、
「均衡状態の世界」が提示される。
「大部分の人々は、幸福であるためには国は大きくなければならないと考えている。
しかし、たとえ彼らが正しいとしても、
大きな国とは何か、小さな国とは何かを知ってはいない……。
植物や動物、道具といった他のものに限界があるように、国の大きさにも限界がある。
あまりに大きすぎたり小さすぎる場合には、国は本来の力を保ちえず、
国としての本性をまったく失ってしまうか、没落するかである。」

では、「均衡状態の世界」における「適正人口」はどう考えられたらよいか。
Wikipediaを参照すると、「適正人口」とは次のようなもの、とされる。
「適正人口とは、地球の自然や環境を考慮し、
すべての人々が最適な生活水準を維持できるとされる人口規模の概念」
そのうえで、人口減少下の日本についていえば、
「適正人口」の考え方は次の3通りに分類できる、としている。
・日本の適正人口は5,500万人。
・現在の日本の人口(約1億3000万人)はやや大きすぎるので、
 人口減少社会を肯定的に捉え、
 それに合った新たな社会の概念と仕組みを確立することが急務である。
・政府は、日本の適正人口について「明確に何人と申し上げることは困難である」と答弁。

我が国の将来人口推計(国立社会保障人口問題研究所、2017年)では、
現在約1億3000万人の人口は2100年には約6000万人に下落するとされる(中位推計)。
2100年の人口が予測通りに推移するとすれば、
今後特段に人口対策を講じなくとも2100年には「適正人口」に移行することになる。
ここで急激な人口減少に直面する韓国の事例を取り上げると、
1960年の合計特殊出生率(6.10)は、2019年には0.92に急落している。
その背景には、「出産抑制政策の時期」(1962~1995年)、
「人口資質向上政策期」(1966~2003年)、「出産奨励政策期」(2004年以降)
という3つの段階の国の人口政策展開が関連していた、とされる。
政策変数で出生率を変えられることを暗示している。
では、我が国の出生率の下降に対して少子化対策はどう講じられ、
「適正人口」をどう考え、どのような方策でその達成に向かうべきなのか。
次回は、この点を焦点に考察することにしよう。

【プロフィール】
教育政策論、教育社会学専攻。東京教育大・筑波大で勤務を始めて以降、
東京学芸大、国立教育政策研究所等を経由し、
現在は東京学芸大名誉教授、 国立教育政策研究所名誉所員。
この間、各地の教育委員会の学校づくり等に携わるほか、
教職員対象の各種研修会講師も務める。
放送大学TVによる教員免許更新講習では学校・家庭・地域社会をテーマに
約10年間講師を務めてきた。