これまで4回にわたって、アメリカにおける政府と大学の関係を見てきた。
私立大学に対しても、連邦政府はさまざまな支援を行ってきたが、
現在では大学に対する支援は学生への経済的支援と研究支援にほぼ限定されている。
しかし、過去においては、連邦政府は、私立大学に対してのみならず、
州立大学に対しても手厚い支援を行った経験がある。
ランドグラント大学(ユニヴァーシティあるいはカレッジ)、
土地付与大学がその典型である。
土地付与大学とは連邦政府が国有地を州政府に対して現物、
あるいは債権の形で付与して、
それらに基づき州政府が州立大学を設立するものである。
1862年に上院議員のモリルによって法制化されたので、
モリル・ランドグラント法、通称モリル法と呼ばれる。
なぜこのような政策が取られたのか。
それまでの大学(カレッジ)は、いわゆるリベラルアーツや
中世大学以来の法学・医学・神学の専門職養成が中心であった。
それに対して、新興国アメリカ合衆国は農業や工業の振興が最重要課題であり、
その人材養成が求められた。しかし、既存の大学は、
農学や工学などの実用的な学問に対しては、
大学教育の対象でないという考えが強かった。
このため、こうした人材養成を行う新しい大学が必要とされたのである。
そのことは、代表的なランドグラント大学である、
テキサスA&M大学(Texas Agricultural & Mechanical University)が、
その校名に文字通り農学とメカニクス(工学)を冠していることに表されている。
現在では、アメリカ公立ランドグラント大学協会のメンバーは25校となっている。
しかし、私立大学でもマサチューセッツ工科大学(MIT)はランドグランド大学である。
さらに、日本では考えられないことだが、コーネル大学は、私立大学だが、
ランドグランドの公立の学部もある総合大学である。
このようにアメリカの大学の複雑性と多様性、
そして、政府と大学の関係の特異性を理解することが、
現在の問題を見る場合にも何より有意義なのである。
【プロフィール】
東京大学名誉教授、現・桜美林大学教授。
主な研究テーマは「高等教育論」「教育費負担」「学生支援」「学費」。
奨学金問題の第一人者として知られ、
『大学進学の機会』(東京大学出版会)、
『進学格差』(筑摩書房)など著書多数。
