進路指導の現場では「志望動機」と「志望理由」を区別することがある。
しかし高校生にこの区別をわかってもらうのはなかなか難しい。
教員時代の面接練習や履歴書準備では、
「洋服やファッションに興味があるのでアパレル販売を希望しました」とか
「家で祖父母のお世話をして喜ばれたので介護職を希望しました」などと
志望理由を語るがその先を展開できない生徒がしばしば現れた。
いずれもその職業を意識したり身近に考えたりする「きっかけ」としては
あっても良い話だが、これを志望理由に応募するのはなんとも心細い。
そのようなとき、私は
「心が動いたという意味で動機はそこかもしれないけれど理由としては弱いね」
と言いながら志望理由のまとめ方の指導を始めることが多かった。
大学生と違ってエントリーシート提出がない高校生が、
応募時に「この仕事、この企業」をなぜ選択したかを表現する手段は履歴書だけだ。
しかし履歴書の志望動機欄は狭く、
論理性と客観性を持ち、読んだり聞いたりした人の納得や共感につながる、
本来の「志望理由」を展開するのは難しい。
しかも今回の統一用紙改訂でこの欄に「アピールポイント」も加わった。
自己アピールにもスペースを割かなければならないとなると、
履歴書には「きっかけ」即ち「動機」くらいしか記入できなくなる。
その意味でこの欄は文字通りの「志望の動機欄」だ。
その狭い「志望の動機・アピールポイント欄」では
自己の行動や経験に基づいた「具体性」と、
自分にしか書いたり話したりできず、
他の志望先には使えない「独自性」を出すことは難しい。
したがって記入内容はきっかけ中心でもやむを得ないが、
面接試験やテーマに「志望理由」が課された作文試験に向けては
前述のようなしっかりした「志望理由」を展開できるように
準備をしておかなければならない。この二段階準備が難しいのだ。
興味を持った「きっかけ」ならば、
「ネットで見た」や「先生に紹介された」でも問題はない。
大切なのはその仕事で、その企業で、
社会人生活のスタートを切って人生の基礎を築きたい、
場合によっては生涯の仕事として考えたい、と決意するに至った過程だ。
興味を持ってから何をどのように調べ、どこで何を見て、誰から何を聞いたのか。
未来に向けてその仕事で、その企業で自分は何をしたいか、何ができるか。
履歴書はこのように具体的な「志望理由」につながる、
自己の経験や行動を話題に面接官と「会話」をする入り口であってほしい。
「志望理由」が本編ならば「志望動機欄」は予告編と言えよう。
面接官が興味を持ち「それからどうしたか」とか「その時はどうだったか」
という質問をするような「予告編」を目ざしたい。
【プロフィール】
元都立高校進路指導主任・
多摩地区高等学校進路指導協議会事務局参与/
キャリア教育支援協議会 顧問
1976年より都立高校教員。
2004年より都立拝島高校勤務、
2010年より進路指導主任として主に就職指導に当たる。
2019年3月定年退職。
