前回(2025年10月8日掲載)のダートマス判決について、いくつか補足したい。
かなり複雑な問題を思い切って単純化しているため、誤解を生じさせないためである。
まず、ダートマス・カレッジに限らず、アメリカの植民地カレッジの多くは、
州政府から補助金を含む多大な支援を受けていた。
ダートマス・カレッジについても、
判決以降もニューハンプシャー州政府からの支援は続いた。
次に、公的支援を受けていたように、ダートマス・カレッジだけでなく、
当時のアメリカの大学は、そもそも公立か私立か曖昧であった。
判決は、ダートマス・カレッジが私立高等教育機関であることを明確にし、
法人として自治を持ち、州政府の権限の及ばないことを示した点で画期的であったのである。
最後に、この判決の元になった事件は、創立者の息子である学長が理事会と対立し、
州政府は学長の側に立ったため、学長対理事会の対立紛争に端を発した問題であった。
州政府は州の権限が及ぶとしてダートマス・ユニヴァーシティと改名した。
こうしてカレッジとユニヴァーシティという2つの大学と理事会が並立することになった。
しかも、この紛争には共和党が選挙と絡んで学長に肩入れしたという複雑な政争が絡んでいる。
判決の意義と大学と政府の複雑な関係の一端を理解していただければ幸いである。
【プロフィール】
東京大学名誉教授、現・桜美林大学教授。
主な研究テーマは「高等教育論」「教育費負担」「学生支援」「学費」。
奨学金問題の第一人者として知られ、
『大学進学の機会』(東京大学出版会)、
『進学格差』(筑摩書房)など著書多数。
