「恐怖の電話」筆者・青木勝美

米国の採用担当者がオンライン上に、次のような投稿で異例の閲覧数があったそうだ。
“最近では働く20代の若者の多くは電話に出ても「もしもし」とも「やあ」とも言わず、
(中略)息遣いや背後の騒音が聞こえるだけで、
こちらが「もしもし」と言うのを待っている”
事前に相手が希望し、約束した時間ちょうどに電話をかけたにもかかわらずである。

これは、日本経済新聞7月28日付に掲載された「電話に対応できない若者たち」
(筆者:ビジネス・コラムニスト ビリタ・クラーク氏)の書き出しである。
筆者は“電話を受けて何も言わないとはどういう人間なのか”の答えとして、
英国の調査会社からのデータから、25歳未満の若者だと断定している。
その原因として、固定電話が家庭から徐々に無くなり、
“電話の受け答えの方法を教わる機会”がなかった。
また、“SNSの普及に慣れ親しんだ結果として突然の電話に戸惑う”のではないか。
さらに近年、犯罪に利用される可能性がある“迷惑電話”の存在をあげている。
この傾向は、米国や英国に限らず世界的に「非常に一般的だ」と
発言する著名人(メアリー・ジェーン・コップス氏)もいる。

わが国も同様なゾーンに属していると思われる。
株式会社ソフツーの「電話業務に関する実態調査」(2023年)によると、
「職場での電話対応に苦手意識がある」と答えた20~30代は約7割以上、
全世代でもおよそ6割にのぼっている。
SNSのチャットやメッセージ機能が普及したことに伴い、
電話で話す機会が以前より減少したことで、電話に対する苦手意識を感じる
「電話恐怖症」に陥っている若者が増加していると考察されている。

以下は、十数年前に私が勤務した学校の卒業生が話してくれたことである。
その会社は、事務職の仕事として、代表電話の対応が新入社員に任されていた。
仕事中に掛かってくる電話の大半は“苦情”に関する内容で、
その会社に関係のない内容も多数あったとのこと。
入社したての社員にはかなり重荷であった。
日が経つにしたがい仕事に対する気力が失せ、電話を取るのも面倒になってきた。
入社から2か月余りであったが、真剣に退社を考えたという。
思い切って上司に相談したところ、先輩社員が日替わりで手伝ってくれることになり、
気持ちを立て直すことができたとのことであった。
怪しい苦情電話対策を教えてくれた。5分ほど話を聞いて、
「確認のうえ折り返し連絡をしますので電話番号、お名前をお願いします」
と言うと即電話は切られ「退治できた」(発言そのまま)そうである。

職場において立場の弱い若手社員に、
電話対応を強要する“TELハラ”(テルハラ)という言葉が登場している。
新入社員研修の一つとして、かなり以前から
電話講座を取り入れている企業が多いことは聞いている。
電話対応は、まだまだビジネスに欠かせないものである。
しかし、若い人には古くて新しいものに見えるのかもしれない。
電話をかける側は、見ず知らずの人からのコールに、
恐怖を振り払い勇気を持って対応する若手社員にエールを送るべきである。
恐怖の電話に打ち勝てと。

【プロフィール】
1983年4月より群馬県公立高校教員として勤務
学科主任、学年主任、保健主事、進路指導主事等歴任
2019年、平成30年度 専門高校就職指導研究協議会全国発表
2022年3月、群馬県公立高校教員完全定年(再雇用含む)
2022年4月よりライセンスアカデミー東日本教育事業部顧問として、
おもに就職関係の進路講演、面接指導等を各学校で行う