「七月六日はサラダ記念日」筆者・大阪国際中学校高等学校 橋本光央

「この味がいいね」と君が言ったから七月六日はサラダ記念日
これは、俵万智さんのメガヒット歌集『サラダ記念日』の一首ですが、
実は本当に作ったのはサラダではなく、カレー味の唐揚げだったんですって。
料理した日も7月6日ではなかったそうです。へぇ~、って感じです。
このことに関して俵さんは、「短歌は事実・出来事を伝える日記じゃなくて、
真実・自分の本当の気持ちを伝える手紙でありたい」と言っておられます。

やっぱり、そうなんですね。
というのも、田村由美さんの『ミステリと言う勿れ』でも、こんなことが言われています。

「いじめてないというのは、Aが思ってるだけです。その点、Bの思い込みと同じです。
……どちらもウソをついてなくても、必ず食い違う。
AにはAの真実がすべてで、BにはBの真実がすべてだ。
だから真実は1つじゃない。2つや3つでもない。真実は人の数だけあるんですよ。
でも、事実は一つです。この場合は、AとBがぶつかって、Bがケガをしたということです」

ここで、真実と事実の違いを調べてみました。すると、
「事実:客観的に検証できる事柄」
「真実:個人の信念や価値観に基づいて『本当だ』と感じられる主観的な本質」
とありました。
だから、「客観的な事実」とは言うけれど、「客観的な真実」とは言わないんです。
       
また、歌人・鈴掛真さんは、こんなことを言っておられます。
「国語の授業では、昔の有名な方が書いた本の一文の解釈の仕方って、
答えを教えられてしまう、答えを決められてしまうってイメージがあった」
これ、すごい問題提起ですね。というのも、書かれている文章(事実)に対して、
その解釈の仕方(真実)は人の数だけあるはず。
なのに、授業では一つの解釈を押し付けていることがあるからです。

それに対して、今、文部科学省は『国語力を身に付けるための国語教育の在り方』の中で、
国語教育についての基本的な認識として
「今後の国際化社会の中では、論理的思考力が重要であり、
自分の考えや意見を論理的に述べて問題を解決していく力が求められる」
という前提に続けて、
「しかし、論理的な思考を適切に展開していくときに、その基盤として大きくかかわるのは、
その人の情緒力であると考えられる。したがって、論理的思考力を育成するだけでは
十分でなく、情緒力の育成も同時に考えていくことが必要である」
と言っています。やはり、解釈の仕方を押し付けるような授業ではなく、
情緒力=心の育成をしなければ、人は育たないということでしょう。
        
最近、論理的思考力、ロジカルシンキングが大切と言われます。
でも、それだけではギスギスしたものとなり、
「人と人との良好な関係」を築くことはできません。
学校においては、事実を追究する論理性と、
一人ひとりの真実を大切にする情緒性をバランスよく身に付ける教育が必要だと考えます。

【プロフィール】
1989年より大阪北予備校に勤務、
2007年より大阪国際学園に勤務。
橋本喬木・天野大空のペンネームにてショートショートを執筆。
光文社文庫『ショートショートの宝箱』シリーズ等に作品を提供。
https://yomeba-web.jp/special/ss-cam5/