前回(2025年9月5日掲載)は、アメリカの大学と連邦政府の特異な関係を説明した。
さらに、アメリカの大学と政府の関連を理解するために不可欠なのが、
1819年の「ダートマス判決」である。
ダートマス大学(Dartmouth College)は1769年にイギリス政府との契約により創設された。
前回も触れたように、当時アメリカはイギリス植民地であり、
イギリスでは、大学の創設は、国王の勅許状(チャーター)により認可される。
このため、植民地でもチャーターにより創設されたのである。
ニューハンプシャー州政府は、1776年のアメリカ合衆国の独立後、
この契約の内容を州法によって変更しようとした。
これに対して、1819年のダートマス大学対ニューハンプシャー州議会の連邦最高裁判所判決は、
ダートマス大学は州から独立した私立機関であることを明確化し、
大学設立時の契約を、州の法律で変更することは、
個人を政府の行為から保護する合衆国憲法に違反し、無効であるとした。
すなわち、大学に対して、州政府による契約変更は及ばないとした。
このように、大学の政府からの独立を明確に示したのである。
このダートマス判決により、アメリカでは大学の自治と理事会支配が確立し、
アメリカの大学と政府の関係を規定するものとなったのである。
【プロフィール】
東京大学名誉教授、現・桜美林大学教授。
主な研究テーマは「高等教育論」「教育費負担」「学生支援」「学費」。
奨学金問題の第一人者として知られ、
『大学進学の機会』(東京大学出版会)、
『進学格差』(筑摩書房)など著書多数。