「『場としての学校』──教育達成を規定するもの」筆者・葉養正明

文科省の実施した全国学力・学習状況調査結果の第1弾が先だって公表された
(7月25日時事通信社「内外教育」)。
その公表データのポイントは、次の4項目にまとめられる。
 ・算数・数学の学力のばらつきが大きい
 ・都道府県・政令指定都市別の学力の分布は前回と同じ狭い範囲
 ・授業がよくわかるとの回答割合が減り、平日の校外での勉強時間が引き続き減少
 ・長期欠席の約2万6000人が調査に参加
現行学習指導要領の中核に置かれる「主体的対話的で深い学び」というねらいが
どの程度達成できているか、若干の疑念を抱かせる結果である。
このたびの公表前倒しは夏休みを控え、
家庭や学校が子どもの学習指導に役立てることをねらいとしている。
今後課題になるのは、浮かび上がった問題点をどのように乗り越えるかである。
子どもの学力や学習意欲・動機付けなどは、
そもそもどのような要因に規定されているか振り返ることが問われている。

以下では、前回でも取り上げたパットナムの著作を手がかりに考えてみよう。
『われらの子ども―米国における機会格差の拡大』
(紫内康文訳、創元社、2017年)には、次のくだりがある。
「われわれが見てきた証拠では、組織としての学校は競い合いの場を平準化することに
 時には適度な貢献をする。・・・(しかし)、組織としての学校が機会格差に対して
 現在与えている影響は方向まちまちの、またさほど大きなものではないという事実は、
 格差の解消策において学校での改革は重要な部分とはならない」ということを意味する。
パットナムは、「組織としての学校」と「場としての学校」を対比し、
生徒の教育達成には、「組織としての学校」(学校運営の効率化や授業改善など)よりも
「場としての学校」(コミュニティの階層構造に基づいた在籍生徒の質や
学校への地域の期待や支援の水準)がより大きな影響を及ぼしている、と指摘する。

「課外活動」に言及する箇所では次のように述べられる。
「学校を基盤とした課外活動が起こったのはおおよそ一世紀前であり、
 それは『高等学校運動』を生み出したのと同じ進歩主義的な教育改革の一部をなしていた。
 その意図は課外活動を通じて、現在『ソフトスキル』と呼ばれているもの
 ―強い勤労習慣、自制力、チームワーク、リーダーシップそして市民参加感覚―
 を全ての階級の人間に広めようとするものだった。
 しかし今日の課外活動参加に対し目を向けると
 ―フットボールからバンド、フランス語クラブから学生新聞までの全てにおいて―
 アメリカの教育システムにおける階級不均衡拡大の
 さらなる一次元を目の当たりにすることができる。」

さらに、「課外活動に一貫して参加していることは、在学中、
そして卒業後のさまざまな種類のプラスの結果と強く関連している」とする。
なお、課外活動がプラスに働くのは、「成績平均点の高さ、中退率の低さ、
無断欠席の少なさ、よい勤労習慣、教育目標の高さ、非行率の低さ、自尊心の高さ、
心理的回復力の高さ、リスク行動の少なさ、市民参加の多さ、
そして将来の賃金や職業的達成の高さ」などである、としている。

我が国では、教員の「働き方改革」に関連し学校教育守備範囲の絞り込みが検討され、
特に部活の地域移行・地域展開が議論の的になっている。しかし、パットナムの議論では、
「課外活動」は階級的属性に規定される生徒の教育達成にプラスに働く側面を持つとされる。
地域社会には棲み分けが存在し、日本社会全体としての格差拡大も指摘されるなかで、
教員の「働き方改革」と「場としての学校」の幅を後退させない改善方策の両立が問われている。

【プロフィール】
教育政策論、教育社会学専攻。東京教育大・筑波大を出発点に、
東京学芸大、国立教育政策研究所等で勤務し、
現在は東京学芸大名誉教授、 国立教育政策研究所名誉所員。
日本教育行政学会、日本教育社会学会、日本情報教育学会のほか、
千葉教育創造研究会や縮小社会研究会(京大工学部中心)、
災害文化研究会(岩手大工学部中心)、に参加しています。