「就活を終えれば、人生の夏休み?」筆者・法政大学キャリアデザイン学部 教授 児美川孝一郎
毎年のことだが、ゼミの4年生に対しては、
春学期中に一度は研究室に呼び出して、個人面談をすることにしている。
卒業論文の執筆に向けて進捗状況を確認し、
夏休み中の作業課題など今後の段取りを付けることが主な目的である。
ただ、以前はそれとは別に、就活の様子(結果)を聞きだして、
ケアが必要な学生がいないかどうかを確かめるという、
表には出さない理由もあった。
その個人面談の様相は、コロナ禍が明けて以降、ずいぶんと様変わりしている。
卒論の準備が進んでいない学生が少なくないことは、昔も今も変わらない。
だから、変わったのは、就活のほうである。
近年では、ケアが必要な学生を見つけるほうが難しい。
今年などは、ほぼ全員が3月中には内定先を決めていた。
もちろん、頭の中では、今どきの就活の
「早期化」と「売り手市場」は理解していたが、さすがに驚いた。
では、4年に進級する前に就活を終えてしまう学生たちは、
その後をどう過ごしているか。
実は、彼/彼女らの大多数は、すでにこの時点で、
卒業に必要な所要単位のおおかたを修得し終えている。
だから、授業のために大学に来るのは、
週ゼロから、多くても週2日くらいだという。
とすれば、残りの日々は、どうしているのか。
不都合な真実であるが、包み隠さずに言ってしまおう。
ほとんどの学生には、就活が終わると、「人生の夏休み」が到来する。
だから、アルバイトに明け暮れる者もいれば、
最後のチャンスとばかりに友達と遊ぶことに余念のない者、
家にいることが多くて本当に時間を持て余している者もいたりする。
「最近の大学生は忙しい」と言われることがある。筆者もそれには同意する。
大学の授業は、出席管理や課題提出、課外での体験学習など、
以前よりも密度が濃く、厳しくもなっている。
家庭の経済事情もあって、自宅からの遠距離通学の学生が増え、
アルバイトに割く時間も延びている。
そこに、インターンシップ等を含め、早期化した就活がかぶさってくるのである。
以前には、大学生活そのものが「人生の夏休み」のように言われたときもあった。
しかし、今は違うのである。少なくとも就活を終えるまでは。
全般的にはそうなのだが、ただ、運よく就活を終えられれば、
遅まきながら「夏休み」はやって来る。
売り手市場のおかげで、
時間的にはずいぶん長く与えられることになるこの期間を、どう過ごすのか。
正直、こちらとしては、学業を含めて、
これまで十分に時間とエネルギーをかけられなかった課題にチャレンジし、
注力してほしいと思う。しかし、面談に来る学生たちの
解放感に溢れた表情を眺めていると、ここに至るまでの努力や忍耐も想像されて、
そう強くは言えない自分がいたりもする。
はて、さて、どうしたものか。
【プロフィール】
教育学研究者。
1996年から法政大学に勤務。
2007年キャリアデザイン学部教授(現職)。
日本キャリアデザイン学会理事。
著書に、『高校教育の新しいかたち』(泉文堂)、
『キャリア教育のウソ』(ちくまプリマー新書)、
『夢があふれる社会に希望はあるか』(ベスト新書)等がある。