(※編注:本コラムは5月中旬に執筆いただきました)
さて、新年度が始まってから、生徒たちは不安や緊張を抱えながら
学校生活をスタートさせます。しかし4月中旬になると、
徐々に複数の小グループが形成され、集団としての基盤が整い始めます。
この時期に大切なのが、「教示的リーダーシップ」による、
いわば“型から入る”指導です。
まずは行動の基本的なスタイルを身につけさせます。
その上で「説得的リーダーシップ」によって、行動の意味や意義を丁寧に伝え、
生徒自身が納得して行動できるよう導いていきます。
つまり、5月末までは「目標達成のための指導」と「集団維持のための支援」
の両方をしっかりと行うことが重要です。
6月以降、生徒たちが自ら納得し、主体的に行動するようになってきた段階で、
教師のリーダーシップも「参加的リーダーシップ」へとシフトさせます。
こうした変化を通じて、生徒の自律性が高まり、
仲間同士の協働も活性化され、学校生活への意欲や士気が自然と高まっていきます。
結果として、学級に一体感が生まれるのです。
では、そのような時期に、教師が生徒にもってほしい「勢力資源」とは何でしょうか。
私は「親近・受容性」だと考えます。
「親近性」とは、教師と生徒の心の距離が近いこと、つまり心理的距離が小さい状態です。
生徒が「先生は自分の気持ちや考えを理解してくれている」「相談しても大丈夫だ」
と感じられるような、内面的なつながりがあります。
一方、「受容性」とは、生徒の言葉や感情、行動を、
教師が自分の価値観で評価したり批判したりせず、あるがままに受け止める姿勢を指します。
この「親近・受容性」を高めるためには、
生徒と接する時間を意識的に確保することが大切です。
とくに、何かの作業を一緒に行うことで自然な会話が生まれ、
距離を縮めやすくなります。また、常に「教師」という役割にとらわれず、
ときにはその肩書きを少し外し、一人の人間として生徒に向き合うことも大切です。
なお、たとえ「参加的リーダーシップ」の段階であっても、
すべての生徒が同じようにクラスの雰囲気に溶け込めているとは限りません。
まだなじめていない生徒には、特に丁寧に時間をかけて関わる姿勢が求められます。
前回までに触れた「教示的リーダーシップ」や「説得的リーダーシップ」は、
いわば他律的な意欲づけの段階でしたが、
今回の「参加的リーダーシップ」、そして次回扱う「委任的リーダーシップ」は、
自律的な意欲づけの段階にあたります。
今日の学校教育では、自律的に学ぶ力を育てることが求められています。
その実現には、生徒の成長や状況に応じて、
教師自身のリーダーシップのあり方を柔軟に変えていくことが不可欠なのです。
「親近・受容性」は、人との温かな交流やつながりを大切に思う心と深く関わっています。
前回の言葉を借りるなら、「人を愛でる気持ち」を伝え、
「人を愛でる気持ちを育てるプロセス」だといえるでしょう。
引用文献
・ポール ハーシィ、 デューイ・E. ジョンソン、ケネス・H. ブランチャード
『入門から応用へ 行動科学の展開【新版】―人的資源の活用』(2000、生産性出版)
・河村茂雄『教師のためのソーシャル・スキル―子どもとの人間関係を深める技術』
(2002、誠信書房)
【プロフィール】
会津大学文化研究センター 教授 兼 学生部長
2015年から現職。専門領域は「教育学」「教育カウンセリング心理学」
研究テーマは教育困難校での支援